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2023年3月3日金曜日

白石歌063水調歌頭

水調歌頭

富覽亭永嘉作

1日落愛山紫、沙漲省潮回。
2平生夢猶不到、一葉眇西来。
3欲訊桑田成海、人世了無知者、魚鳥両相猜。
4天外玉笙、杳子晋只空台。

5倚闌干、二三子、総仙才。
6爾歌遠遊章句、雲気入吾杯。
7不問王郎五馬、頗憶謝生双屐、処処長青苔。
8東望赤城近、吾興亦悠哉。

 

富覽亭永嘉

 

1日が落ち山の(あか)を愛し、(きしのどろ)()潮が(めぐ)るのを()る。

2平生の夢は()不到(とどかな)い、一葉(こぶね)(はる)か西から来た。

3桑田が海に成ったか訊ねよう()とするが人世(このよ)では知る者が了無(まったくいな)い、魚と鳥は両(者)とも相猜(さぐりあ)う。

4天の外、玉笙は(とお)い、子晋は()だ台を空しくする。

 

5(かつてここで)闌干に(もた)れた、二三子(ひとびと)(すべ)て仙才だった。

6爾が「遠遊」の章句を歌えば、雲気が吾が(さかずき)に入る。

7王(さん)の五馬は不問(いうまでもな)い、(とて)(おもいだ)す、謝(さん)双屐(げた)処処(あちこち)(いつ)も青い苔。

8東のほう赤城(山)の近くを望めば、吾が興も()た悠なる(かな)


開禧二年(1206)、五十二歳の作。 0富覽亭:『永嘉県志』に見える。 永嘉:浙江温州。 2一葉:蘇軾「前赤壁賦」に「駕一葉之扁舟」とある。 眇西来:遠く西から来る。 桑田成海:世の中の変化が大きいこと。温州は海辺にある。 了無:まったくいない。 3「天外」二句:王子喬、字は子晋の故事。笙を吹くと鳳凰の鳴き声のようで、修行して仙人となり、鶴に乗って去った。 5二三子:諸君、数人。『論語』「八佾」に「二三子何患於喪乎。天下之無道也久矣、天将以夫子為鐸」とある。 遠遊:『楚辞』の「遠遊」篇。遊仙に託して情を述べている。 6王郎五馬:王羲之の五馬坊。『永嘉県志』に「五馬坊在旧郡治前。王義之守永嘉、庭列五馬、繍鞍金勒、出即控之。今有五馬坊」とある。 謝生:謝霊運。山水を好み、永嘉太守だった。 双屐:歯のある木製のくつ。謝霊運はこれを履いて山歩きをし、上るときは前の歯をとり、下る時は後ろの歯をとったという。『宋書』本伝に見える。 7赤城:山の名。台州にある。浙江天台の北で、道教の名山。

2023年2月19日日曜日

白石詩098句②



其二

1屋角紅梅樹、
2花前白石生。〈見愛日斎叢鈔〉

 

其二

 

(いえ)(すみ)に紅梅の樹、

2花の前に白石が()る。〈『愛日斎叢鈔』に見える〉

白石詩098句①



其一

1小山不能雲、
2大山半為天。〈見帰田詩話〉

 

其一

 

1小さな山に雲は不能い、

2大きな山は半ば天と為る。〈『帰田詩話』に見える〉


白石詩097自題画像

自題画像〈見硯北雑志〉

1鶴氅如烟羽扇風、
2寄情芳草緑陰中。
3黒頭辦了人間事、
4来看凌霜数点紅。

 

(みずか)ら画像に()く〈『硯北雑志』に見える〉

 

1鶴氅は(もや)(よう)、羽扇で風をおくる、

2情を寄せる、芳草の緑陰の中に。

黒頭(わかいころ)人間(せけん)(ぞくじ)辦了(やりおえ)

凌霜(ふよう)数点(いくつ)(はな)をつけているのを来て()ている。


制作年、未詳。 0周錚「姜夔画像雑考」(『文物』1987年第4期)に、画像の拓本が現存する、という。刻石のため模本を描いた許乃谷によると、原画は南宋・白良玉の作という。 1鶴氅:白地に黒い縁取りで、鶴の羽根をかたどったように袖が丸くなっている上着。道袍。  3黒頭:青年から壮年。まだ白髪頭になっていない、の意。 4凌霜:木芙蓉のこと。拒霜花ともいう。『硯北雑志』巻下は「夜霄(ノウゼンカズラ)」に作る。

白石詩093春詞②

春詞〈見武林旧事〉

其二

1万数簪花満御街、
2聖人先自景霊回。
3不知後面花多少、
4但見紅雲冉冉来。

 

其二

 

万数(あまた)花を()したひとびとが御街(おなりみち)(あふ)れ、

聖人(こうごう)が先に景霊(宮)から(かえ)る。

後面(うしろ)に花が多少(どれほど)あるか不知(わからな)い、

()(あか)い雲が冉冉(ゆっくり)と来るのが見えるだけ。


2聖人:皇后をいう。『武林旧事』巻一「恭謝」に「是日皇后及内中車馬先還、宮中呼后為聖人」とある。 4紅雲:花簪をした人々の群れを喩える。

白石詩093春詞①

春詞〈見武林旧事〉

其一

1六軍文武浩如雲、
2花簇頭冠様様新。
3惟有至尊渾不戴、
4尽将春色賜群臣。

 

春詞〈『武林旧事』に見える〉

 

其一

 

1六軍の文武(の官)は、雲の(よう)(おお)く、

2花を頭冠(あたま)(あつ)め、様様(さまざま)に新しい。

3惟だ有至尊だけが(まった)不戴(つけな)いで、

4尽く春の色()群臣に賜る。


制作年、未詳。 0『武林旧事』巻一「恭謝」に「大礼後、択日行恭謝礼、……礼畢、宣宰臣以下合坐官並簪花、対御賜宴、上服幞頭、紅上蓋、玉束帯、不簪花、……御筵畢、百官侍衛吏卒等賜簪花従駕、縷翠滴金、各競華麗、望之如錦繍」とあり、白石の詩を引用する。 1六軍:天子が統括する軍隊。 3至尊:皇帝の代称。

白石詩092灯詞④

灯詞〈見武林旧事〉

其四

1遊人帰後天街静、
2坊陌人家未閉門。
3簾裏垂灯照尊爼、
4坐中嬉笑覚春温。

其四

 

遊人(ものみきゃく)が帰った後、天街(おなりみち)は静かになったが、

坊陌(はなまち)の人家は門を未閉(とじな)い。

3簾の(なか)では(ちょうちん)を垂らし、尊爼(えんせき)を照らし、

4坐中(の人々)は嬉笑わらい、春の温かさをかんじる。 


2坊陌人家:周邦彦「瑞龍吟(章台路)」詞に「愔愔坊陌人家、定巣燕子、帰来旧処」とある。 3尊爼:宴席。「尊」は酒器、「俎」は肉を置く台。 4春温:春の暖かさ。蘇軾「送魯元翰少卿知衛州」詩に「時於氷雪中、笑語作春温」とある。

白石詩092灯詞③

灯詞〈見武林旧事〉

其三

1沙河雲合無行処、
2惆悵来遊路已迷。
3却入静坊灯火空、
4門門相似列蛾眉。

 

其三

 

1沙河(塘)は雲合(ひとだかり)で、行く処も無い、

惆悵(かな)しいが遊びに来て、路に已に迷った。

(おもいがけ)ず静かな(ろじ)に入ってみると、灯火は(まばら)で、

門門(どのもん)蛾眉(びじょ)を描いた灯籠)を(つら)ねている相似(よう)だ。


1沙河:沙河塘。『新唐書』「地理志」に「銭塘、望、南五里有沙河塘、咸通二年刺史崔彦曾開」とある。 雲合:雲集する。漢・揚雄「解嘲」に「天下之士、雷動雲合」とある。

白石詩092灯詞②

灯詞〈見武林旧事〉

其二

1灯已闌珊月気寒、
2舞児往往夜深還。
3只因不尽婆娑意、
4更向階心弄影看。

 

其二

 

1灯は(すで)闌珊(きえ)て、月の(いろ)は寒い、

舞児(おどりこ)往往(しばし)ば夜(おそ)くに(かえ)る。

()婆娑()(きもち)不尽(つきな)ので()

4更に階心(きざはし)()影を弄んで()る。


1闌珊:消える。 3婆娑:舞うさま。『詩経』陳風「東門之枌」に「子仲之子、婆娑其下」とあり、毛伝に「婆娑、舞也」という。 4弄影:影を動かすこと。 階心:『武林旧事』は「街心」に作る。

白石詩092灯詞①

灯詞〈見武林旧事〉

其一

1南陌東城尽舞児、
2画金刺繡満羅衣。
3也知愛惜春遊夜、
4舞落銀蟾不肯帰。

 

灯詞〈『武林旧事』に見える〉

 

其一

 

1南の(とおり)、東の(まち)、尽く舞児(おどりこ)

2金で(えが)いた刺繡が羅衣(うすぎぬ)(いっぱ)いに。

()た知る、春遊の夜を愛惜しているのだろう、

4舞って銀蟾(つき)(しず)んでも不肯帰(かえろうとしな)い。


制作年、未詳。 0『武林旧事』巻二「元夕」に見える。 4銀蟾:月の別称。蟾(ガマガエル)が住んでいると考えられていた。

2023年2月18日土曜日

白石詩091寄兪子二首②

寄兪子二首

其二

1郎罷才名今白髪、
2佐州亦復坐窮辺。
3甚欲出手相料理、
4東南風高難寄箋。

其二

 

郎罷(ちち)ゆずりの才名も今や白髪、

2州を(たす)けて亦復()窮辺(はて)()る。

3甚だ(文章を)出手()いて相料理(なぐさめ)たい()が、

4東南の風が(つよ)く、(てがみ)を寄せるのが難しい。


1郎罷:方言。閩の人が父を呼ぶときの言い方。唐・顧況「囝」詩に「郎罷別囝、吾悔生汝……囝別郎罷、心摧血下」とあり、自題注に「囝、哀閩也。囝、音蹇。閩俗呼子為囝、父為郎罷」という。 2佐州:州政を補佐する。州の司馬や通判などの職に任命されることをいう。 窮辺:遠く離れた荒れた地。 3出手:詩文を書いて伝えること。顔之推『顔氏家訓』「文章」に「学為文章、先謀親友、得其評裁、知可施行、然后出手」とある。

白石詩091寄兪子二首①

寄兪子二首

其一

1此郎都無子弟気、
2夜対黄妳籠青灯。
3君今落脚墮鳶外、
4欲往従之歎未能。

 

兪子に寄せる二首

 

其一

 

()(ひと)子弟(ぼっちゃん)の気が(まった)く無い、

2夜は(しょもつ)(むか)い、青灯(ともしび)(かこ)む。

3君は今、脚を墮鳶(みなみ)(はずれ)に落ちつかせている、

()って(きみ)に従いたいが、未能(できな)いことを歎く。


制作年、未詳。 0兪子:兪灝か。 1子弟:風流子弟。 2黄妳:書巻の別称。南朝梁・元帝 『金楼子』巻六に「有人読書握巻而輒睡者、梁朝有名士呼書巻為黄妳、此蓋見其美神養性如妳媼也」とある。 青灯:青白い油灯。唐・韋応物「寺居独夜寄崔主簿」に「坐使青灯暁、還傷夏衣薄」とある。 3落脚:留まること。宿をとること。 墮鳶:『後漢書』「馬援伝」に「当吾在浪泊西里間、虜未滅之時、下潦上霧、毒気重蒸、仰視飛鳶跕跕堕水中」とある。

白石詩089観灯口号十首⑩

観灯口号十首

其十

1正好嬉遊天作魔、
2翠裙無奈雨沾何。
3御街暗裏無灯火、
4処処但聞楼上歌。

 

其十

 

(まさ)嬉遊(あそ)ぶのに()いのに、天が(じゃま)()て、

(みどり)(もすそ)無奈何(どうしようもな)く雨で()れる。

3御街は暗い(なか)、灯火も無く、

処処(あちこち)()だ楼上の歌だけが聞こえるだけ。


1作魔:黄庭堅「以双井茶送孔常父」に「湯餅作魔応午寝、慰公渇夢呑江湖」とある。 2翠裙:緑色のもすそ、スカート。

白石詩089観灯口号十首⑨

観灯口号十首

其九

1修内司人編戯鼓、
2輦宮営裏独焼灯。
3春風到処皆君賜、
4金柳糸糸満鳳城。

 

其九

 

1修内司の(やくにん)戯鼓(がくたい)を編し、

輦宮営の裏では独だ焼灯をする

3春風が到る処、皆な君の(たまもの)

金柳(わかいやなぎ)糸糸(えだ)鳳城(みやこ)に満ちる。


1修内司:宮城大廟の営繕を担当する。教坊が廃止された後は、楽人も司った。『都城紀勝』「瓦舎衆伎」に「紹興三十一年、省廃教坊之後、毎遇大宴、則撥差臨安府衙前楽等人充応、属修内司教坊所掌管」とある。 2輦宮営:『夢粱録』巻九「内諸司」に見える。具体的な職務内容は不明。 4金柳:芽吹いたばかりの柳。 鳳城:都の美称。

白石詩089観灯口号十首⑧

観灯口号十首

其八

1貴客鉤簾看御街、
2市中珍品一時来。
3簾前花架無行路、
4不得金銭不肯回。

 

其八

 

1貴客が簾を(かか)げて御街(おなりみち)()ると、

2市中の珍品が一時(いっとき)に来た。

3簾の前は花架(かざりだな)で、(とお)る路も無い、

4(物売りたちは)金銭を不得(えな)ければ不肯回(かえろうとしな)


1御街:天子の御成道。臨安の朱雀大路。

白石詩089観灯口号十首⑦

観灯口号十首

其七

1紛紛鉄馬小回旋、
2幻出曹公大戦年。
3若使英雄知此事、
4不教児女戯灯前。

紛紛たくさんの鉄馬がすこ回旋まわると、

2曹公の大戦の年が幻出する。

()し英雄に此の事を知らせ(使)たら、

児女(こどもら)を灯の前で(ふざけ)させない(不教)だろう。


1紛紛鉄馬小回旋:『武林旧事』巻二「灯品」に「若沙戯影灯、馬騎人物、旋転如飛」とある。 2曹公:曹操。

白石詩089観灯口号十首⑥

観灯口号十首

其六

1珠絡琉璃到地垂、
2鳳頭銜帯玉交枝。
3君王不賞無人進、
4天竺堂深夜雨時。

 

其六

 

珠絡(つな)いだ琉璃(灯籠)が地まで()垂れ、

鳳頭(ほうおう)が帯を(くわ)え、玉が枝に(まざ)る。

3君王が不賞(めでな)いなら、進む人は(いな)い、

4天竺(寺)の堂の()く、夜に雨ふる時。


1珠絡:珠を綴った紐。髪飾りの一首。またキラキラした物が連なっている喩え。 2鳳頭銜帯玉交枝:灯籠の奇観をいう。 4天竺:天竺寺。上天竺・中天竺・下天竺の三天竺寺から成る。

白石詩089観灯口号十首⑤

観灯口号十首

其五

1好灯須買不論銭、
2別有琉璃値百千。
3都下貴人多預賞、
4買時長在一陽前。

 

其五

 

(すばら)しい灯は(かなら)ず買うのに(おかね)不論(ろんじな)い、

(とく)に琉璃には、値百千(せんきん)のものも有る。

3都下の貴人は、多くが(あらかじ)め賞でて、

4買う時には(いつ)一陽(とうじ)の前である()


2琉璃:『武林旧事』巻二「元夕」に「灯之品極多、毎以蘇灯為最、圏片大者径三四尺、皆五色琉璃所成、山水人物、花竹翎毛、種種奇妙、儼然著色便面也」とある。 3預賞:『武林旧事』巻二「元夕」に「禁中自去歳九月賞菊灯之後、迤邐試灯、謂之預賞」とある。 4一陽:権徳与「冬至日宿斎時郡君南内朝謁因寄」に「明日一陽生百福、不辞相望阻寒宵」とある。

2023年2月17日金曜日

白石詩089観灯口号十首④

観灯口号十首

其四

1花帽籠頭幾歳児、
2女児学著内人衣。
3灯前月下無帰路、
4不到天明亦不帰。

 

其四

 

花帽(はなぼうし)を頭に(かぶ)っているのは幾歳(いくつ)()か、

2女児は内人(きゅうじょ)の衣を(まね)()ている。

3灯の前、月の下、(人ごみで)帰る路が無い、

天明(よあけ)不到(ならな)いと(やは)不帰(かえらな)


1花帽:王建「宮詞」其八十六に「未戴柘枝花帽子、両行宮監在簾前」とある。 籠頭:頭に載せる。 2内人:宮女。

白石詩089観灯口号十首③

観灯口号十首

其三

1遊人総戴孟家蟬、
2争託星毬万眼円。
3鬧裏伝呼大官過、
4後車多少尽嬋娟。

 

其三

 

遊人(ものみきゃく)(すべ)て孟家蟬を戴き、

2争って星毬(ひめちょうちん)の万眼円を()つ。

鬧裏(さわがしさ)のなか伝呼しながら大官が(とおりすぎ)ると、

多少(たくさん)後車(それぐるま)には(ことごと)嬋娟(びじょ)たち。


1孟家蟬:飾りの名。宋・朱彧『萍洲可談』巻一に「(哲宗)時、孟氏皇后、京師衣飾画作双蟬、目為孟家蟬」とある。 2星毬:小さな灯。 万眼円:『武林旧事』「灯品」に「羅帛灯之類尤多、或為百花、或細眼、間以紅白、号万眼羅者、此種最奇」とある。 4後車:副車。侍従が乗る車。 嬋娟:美女のこと。