2021年10月31日日曜日

白石詩001以長歌意無極好為老夫聴為韻奉別沔鄂親友(其一)

以長歌意無極好為老夫聴為韻奉別沔鄂親友

其一

1滔滔沔鄂留、
2有靦三宿桑。
3持缽了白日、
4事賤丸蛣蜣。
5念当去石友、
6煙席凌江湘。
7為君試歌商、
8歌短意則長。

杜甫の「長歌 意は極まり無し、好し老夫が為に聴け」を以て韻と()し、沔鄂の親戚友人に別れ奉る。

其一

1滔滔たる沔鄂に留まり、

三宿桑(ながとうりゅう)して有靦(はずか)しい。

(しょくじ)(もと)めて白日(いちにち)(おわ)り、

4やる事は蛣蜣(フンコロガシ)より(いや)しい。

(おも)う、(いままさ)石友(しんゆう)のもとを去り、

煙席(ふね)で長(江)湘(水)を()えていこう、と。

7君の為に、商のうたを歌おうか、

8歌は短いが、(おもい)(これこそ)(つきな)い。


淳熙十三年(1186)冬、三十二歳の作。(夏承燾『姜白石繋年』) 0長歌意無極好為老夫聴:杜甫「行次塩亭県聊題四韻奉簡厳遂州蓬州両使君諮議諸昆季」詩の第七第八句。 沔鄂:沔は沔水(漢水の別称)、鄂は現在の武漢市一帯。白石は若い頃、ここに嫁いだ姉を頼って暮らしていた。 1滔滔:水の流れるさま。『詩経』小雅「四月」に「滔滔江漢、南国之紀。尽瘁以仕、寧莫我有」とある。 2靦:恥じる。 三宿:仏教語。『後漢書』「襄楷伝」に「浮屠不三宿桑下、不欲久生恩愛、精之至也」、李賢の注に「言浮屠之人寄桑下者、不経三宿便即移去、示無愛恋之心也」とある。のちに「三宿恋」で世俗に恋着することをいう。 3持缽:仏教語。托鉢。 4蛣蜣:蜣螂。タマオシコガネ、センチコガネ、俗にフンコロガシ。黄庭堅「演雅」詩に「蛣蜣転丸賤蘇合、飛蛾赴燭甘死禍」とあり、任淵注に「荘子斉物論注曰、蛣蜣之智、在於転丸、而笑蛣蜣者、乃以蘇合為貴。按爾雅、蛣蜣、蜣蜋也」とある。 5石友:金石のようにかたい友情。晋・潘岳「金谷集作詩」に「投分寄石友、白首同所帰」とある。 7歌商:商のうたを歌う。『淮南子』「道応訓」に、衛の寧戚が徳を修めたが用いられず、商賈となって斉の東門に宿をとっていた。斉の桓公が夜に舎を出ると、寧戚が牛に飯し、角を叩いて商歌を歌っていた。桓公は常人にあらずとして召しかかえた、とある。


2021年10月11日月曜日

白石詩008待千巖(其二)

待千巖

其二

1若人金石心、
2試命洞庭浪。
3伝聞下巴陵、
4瀝酒喜無恙。
5我行丹楓林、
6屢騁白蘋望。
7烏鵲不可嗔、
8論功当坐上。

千巖を待つ

其二

1(千巖翁は)若人(くんし)のような金石(かた)い心で、

(うんめい)を試して、洞庭の浪にこぎだされた。

3伝え聞くところでは、巴陵を(くだ)り、

(おみき)(そそ)いで無恙(ぶじ)を喜ばれたそうだ。

5我は(いろづ)いた楓の林を行き、

6白い(うきくさ)のあたりを(しばし)騁望(ながめや)る。

(かささぎ)なぞアテにならぬと(しか)るのは不可(いけな)い、

8論功からいえば(かみざ)(すわ)らせる(べき)だ。


1若人:このような人。君子をいう。『論語』「憲問」に「君子哉若人、尚徳哉若人」とある。 3巴陵:今の岳陽。 5「我行」句:『楚辞』「招魂」に「湛湛江水兮上有楓」とある。 6「屢騁」句:『楚辞』「湘夫人」に「白蘋兮騁望」とある。 7「烏鵲」句:カササギが鳴くと、旅人が帰る吉兆と言われる。『西京雑記』に「乾鵲噪而行人至」、仇注に「杜詩、待弟不至、遂嗔烏鵲難憑矣」とあり、ここは逆の意で用いた。

2021年10月10日日曜日

白石詩008待千巖(其一)

待千巖

其一

1褰裳望洞庭、
2眼過天一角。
3初別未甚愁、
4別久今始覚。
5作箋非無筆、
6寒雁不肯落。
7蘆花待挐音、
8怪底北風悪。

千巖を待つ

其一

1「(もすそ)(から)」て洞庭を(ながめ)ている、

2眼を天の一角(かたすみ)()って。

3別れた(ばかり)のときは未甚愁(さほぼさびしくなか)ったが、

4別れて(しばら)くたった今、覚え始めた。

(ふみ)(したため)る筆が無いわけでは()いが、

6(南へ帰る)(あき)の雁が()不肯(ようとしな)い。

7蘆の花のあいまに(さお)音がするのを待っているが、

8北風が(イジワル)をしている怪底(せい)だなあ。


淳熙十三年(1186)秋、三十二歳の作。(夏承燾『姜白石繋年』) 0千巖:蕭徳藻の号。詩055「過湘陰寄千巖」に既出。 1褰裳:もすそをからげる。『詩経』鄭風に「褰裳」詩がり、乙女が「私を思うてくださるなら裳裾を褰(から)げて川をわたれ」と歌う。 7挐:舟をこぐ棹。 8怪底:~のせいで。


2021年10月7日木曜日

白石詩055過湘陰寄千巖

過湘陰寄千巖

1渺渺臨風思美人、
2荻花楓葉帯離声。
3夜深吹笛移船去、
4三十六湾秋月明。

湘陰を(とおりかか)り千巖に寄せる

 

渺渺(はるかとお)く風を(うけ)ながら美人(あなた)を思っています、

2荻の花、楓の葉が、(さび)しげな(おと)を帯びていて。

3夜()けに笛を吹きながら船を(うご)かして()くと、

4三十六湾に秋の月が明るい。


淳熙十二年(1185)秋、三十一歳の作。(馬維新『姜白石先生年譜』。夏承燾『姜白石繋年』は淳熙十三年(1186)秋、三十二歳の作とする) 0湘陰:潭州湘陰県(今の湖南省岳陽市)、洞庭湖の南。 千巖:蕭徳藻。生卒年不詳、紹興二十一年=一一五一年の進士、字は東夫、号は千巌老人。 4三十六湾:詩015「昔遊詩」其一に「朝発黄陵祠、暮至赤沙曲。借問此何処、滄湾三十六」とある。湘陰県近くの地名か。

2021年10月6日水曜日

白石詩084陳日華侍児読書

陳日華侍児読書

1繹句尋章久未休、
2花房日晏不梳頭。
3誰教郎主能多事、
4乞与冥冥千古愁。

陳日華の侍児(じじょ)が書物を読んでいる

()(ととの)(ぶん)(さが)して(いつまで)未休(やすまな)いし、

花房(へや)には日が(たか)くなったというのに(かみ)不梳(とかさな)い。

3誰がご郎主(しゅじん)能多事(おせっかい)(させ)たのでしょう、

冥冥(くら)い千古の愁いを乞与(あたえ)るようなことを。


淳熙五年(1178)、二十四歳の作。(馬維新『姜白石先生年譜』) 0陳日華:陳華、字は日華、福州の人。淳熙五年に淳安令(浙江省金華道)となった。 1繹:理(ととのえ)る。 2花房:部屋の美称。 晏:時刻が遅い。 3郎主:「郎君」に同じ。宋代の俗語か。 4乞与:あたえる。

2021年10月5日火曜日

白石詩085女郎山

女郎山〔漢陽県西二十里〕

1不見郢中能賦客、
2可憐負此女郎山。
3氷魂寂寞無帰処、
4独宿鴛鴦沙水寒。

女郎山〔漢陽県西二十里〕

郢中(みやこ)能賦客(ふのめいじん)不見(いな)くなったのに、

()の女郎山が(じふ)しているのが可憐(あわれ)だ。

3その冰魂(たましい)寂寞(さびし)くも帰る(ところ)()く、

(ひと)宿()の鴛鴦に沙水(きし)(つめた)い。


乾道八年(1172)、十八歳の作。(馬維新『姜白石先生年譜』) 1郢:楚の都。 能賦客:楚の屈原のように詩をよく賦する人。 3冰魂:女郎山の魂をいう。蘇軾「再用前韻(十一月二十六日松風亭下梅花盛開)」詩に「羅浮山下梅花村、玉雪為骨氷為魂」とある。 4独宿鴛鴦:杜甫「絶句」詩に「泥融飛燕子、沙暖睡鴛鴦」とある。ここは反対の意で用いた。