2022年10月11日火曜日

283永遇楽(李清照)

永遇楽  李清照

1落日鎔金、暮雲合璧、人在何処。
2染柳煙濃、吹梅笛怨、春意知幾許。
3元宵佳節、融和天気、次第豈無風雨。
4来相召、香車宝馬、謝他酒朋詩侶。

5中州盛日、閨門多暇、記得偏重三五。
6鋪翠冠児、撚金雪柳、簇帯争済楚。
7如今憔悴、風鬟霜鬢、怕見夜間出去。
8不如向・簾児底下、聴人笑語。

1落ちる日は金を溶かしたよう、暮れの雲は璧を合せたよう、私はどこにいるのか。
2染められた柳、靄は濃く、「落花梅」の曲を吹く笛の怨み、春の気配はどれほどか分からない。
3元宵の素晴らしい時、天気が融和する、瞬く間に風雨がおこらないとどうして言えるだろう。
4来て私を招く、飾った車と美しい馬、他の酒飲み友だちも詩人仲間も、断わる。

5都の賑やかかりし日、女性たちは暇で、三五の元宵節をことに重んじたと覚えている。
6翡翠の羽根飾りの帽子、金糸を撚った首飾り、いっぱいに挿して美しさを競った。
7今や憔悴して、白髪だらけ、夜間に出かけるのが怖い。
8むしろ簾の下で、人の笑う声を聴いていたほうが、ましだ。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
2吹梅笛怨:笛曲に「落花梅」がある。 3次第:またたく間に。続いて。「情況、光景」が同じで無いとも解される。 5中州盛日:汴京の盛んなさまをいう。「中州」はいまの河南省。 三五:正月十五日の元宵節をいう。 6鋪翠冠児:翡翠の羽飾りのある帽子。宋代、女性が元宵節によくかぶった。 撚金雪柳:金の糸を撚って作った首飾り、これも元宵節の装飾品。 簇帯:「簇戴」、頭のあちこちに挿す意。 済楚:整っている、麗しい。宋代の方言。 7怕見:恐れている。韓偓「春閨」詩に「長吁解羅帯、怯見上空床(長吁して羅帯を解き、空床に上るを怯見る)」とある。

1落日は金を(とか)し、暮雲は璧を合せ、(わたし)は何処に()るのか。

2染められた柳、(もや)は濃く、(うめのうた)を吹く笛の怨み、春の(けはい)幾許(どれほど)(わか)らない。

3元宵の(すばら)しい(とき)、天気が融和する、次第(またたくま)(どうし)て風雨が無いはずが。

4来て相召(まね)く、香車(くるま)宝馬(うま)、他の酒朋(さけのみともだち)詩侶(しじんなかま)(こと)わる。

 

中州(みやこ)(にぎやか)な日、閨門(じょせいたち)多暇(ひま)で、三五(げんしょうせつ)(こと)に重んじたと記得(おぼえ)ている。

鋪翠(ひすいのはねかざり)冠児(ぼうし)、金を撚った雪柳(くびかざり)簇帯(いっぱいにさ)して済楚(うつくしさ)を争った。

如今(いま)は憔悴して、風鬟霜鬢(しらがだらけ)、夜間に出去(でかけ)るのが怕見(こわ)い。

不如(むし)簾児(すだれ)底下(した)()、人の笑う(こえ)を聴こう。


yǒng yù lè

1 luò rì róng jīn,mù yún hé bì,rén zài hé chù.
2 rǎn liǔ yān nóng,chuī méi dí yuàn,chūn yì zhī jǐ xǔ.
3 yuan xiāo jiā jié,róng hé tiān qì,cì dì qǐ wú fēng yǔ.
4 lái xiāng zhào,xiāng chē bǎo mǎ,xiè tā jiǔ péng shī lǚ.

5 zhōng zhōu shèng rì,guī mén duō xiá,jì dé piān zhòng sān wǔ.
6 pū cuì guàn ér,niǎn jīn xuě liǔ,cù dài zhēng jì chǔ.
7 rú jīn qiáo cuì,fēng huán shuāng bìn,pà jiàn yè jiān chū qù. 8 bù rú xiàng、lián ér dǐ xià,tīng rén xiào yǔ.

282念奴嬌(李清照)

念奴嬌  李清照

1蕭条庭院、又斜風細雨、重門須閉。
2寵柳嬌花寒食近、種種悩人天気。
3険韻詩成、扶頭酒醒、別是閑滋味。
4征鴻過尽、万千心事難寄。

5楼上幾日春寒、簾垂四面、玉欄杆慵倚。
6被冷香消新夢覚、不許愁人不起。
7清露晨流、新桐初引、多少遊春意。
8日高煙斂、更看今日晴未。

1寂しい庭、また斜めに吹く風と細かに降る雨、重なる門を閉ざさなくてはいけない。
2愛おしい柳とたおやかな花も寒食が近づいて、いろいろと悩ましい天気。
3難しい韻で詩が出来た、酔っぱらった酒が醒める、別のむなしい味わい。
4北へ向かう雁がすっかり渡って、あふれる思いを寄せ難い。

5楼上で幾日も春は寒く、簾を四面に垂らし、美しい欄杆に物憂くもたれる。
6冷やかな香りに夢を破られて目覚めた、愁う私が起きないのを許してくれない。
7露が朝に流れて、新芽のアオギリに初めてたまり、とても春遊びに行きたい気分。
8日が高くなり靄がおさまり、また見る、今日は晴れたかどうか。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
3険韻:詩詞を作る際に、ふつうあまり使われない韻や難しい韻を用いること。 扶頭:頭を持ち上げられずに支える必要があること。酔ったあとの状態をいう。 7「清露」二句: 『世説新語』「誉誉」に、「(王)恭がかつて五石散を服用して京口の射的場まで行くと、『清露晨流、新桐初引(朝の清らかな露が、アオギリの新芽できらめいていた)』」とある。「引」は生長すること。

蕭条(さび)しい庭院(にわ)()た斜めの風と細かな雨、重なる門を(とざ)さなくては(いけな)い。

(いとお)しい柳と(たお)やかな花も寒食が近づいて、種種(いろいろ)悩人(なやま)しい天気。

(むずか)しい韻で詩が(でき)た、扶頭(よっぱら)った酒が醒める、別是(べつ)(むな)しい滋味(あじわい)

(きたへむか)(かり)(すっか)(わた)って、万千(あふれ)心事(おもい)を寄せ難い。

 

5楼上で幾日も春は寒く、簾を四面に垂らし、(うつく)しい欄杆に(ものう)(もた)れる。

6冷やかな香に新夢(ゆめ)(やぶ)られ()(めざ)めた、愁人(わたし)不起(おきな)いのを不許(ゆるさな)い。

清露(つゆ)(あさ)に流れて、(しんめ)(あおぎり)に初めて(たま)り、多少(とて)遊春(はるあそび)(きもち)

8日が高くなり(もや)(おさ)まり、更に()る、今日は晴れたか(どう)か。


niàn nú jiāo

1 xiāo tiáo tíng yuàn,yòu xié fēng xì yǔ,zhòng mén xū bì.
2 chǒng liǔ jiāo huā hán shí jìn,zhǒng zhǒng nǎo rén tiān qì.
3 xiǎn yùn shī chéng,fú tóu jiǔ xǐng,bié shì xián zī wèi.
4 zhēng hóng guò jìn,wàn qiān xīn shì nán jì.

5 lóu shàng jǐ rì chūn hán,lián chuí sì miàn,yù lán gān yōng yǐ.
6 bèi lěng xiāng xiāo xīn mèng jué,bù xǔ chóu rén bù qǐ.
7 qīng lù chén liú,xīn tóng chū yǐn,duō shǎo yóu chūn yì.
8 rì gāo yān liǎn,gèng kàn jīn rì qíng wèi.

281声声慢(李清照)

声声慢  李清照

1尋尋覓覓、冷冷清清、悽悽惨惨戚戚。
2乍暖還寒時候、最難将息。
3三杯両盞淡酒、怎敵他、晚来風急?
4雁過也、正傷心、却是旧時相識。

5満地黄花堆積、憔悴損、如今有誰堪摘?
6守着窓児、独自怎生得黒?
7梧桐更兼細雨、到黄昏、点点滴滴。
8這次第、怎一個愁字了得!

1ふらふらぶらぶら、さむざむひえびえ、そわそわザワザワぞわぞわ。
2ふっと暖かくなったかと思うとまた寒い頃、これがいちばんこたえる。
3二、三杯のうす酒で、どうやって耐えようか、あの、夕どきの風に強さに。
4雁は行ってしまった、ほんとうに悲しい、なんとあれは昔の顔なじみ。

5地面いっぱいに黄菊の花びらが積もる、やつれて枯れて、今や誰かいるだろうか、摘んでやろうなんて。
6窓辺で見守りながら、独りで暗くなるのをどうやって待てばいいのか。
7アオギリにさらに小雨も加わって、黄昏になって、ぽつぽつパラパラ。
8このさまは、どうして一字の「愁」でおさまりましょう。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
2将息:休む、保養する。唐宋の俗語で、現在は南方方言に残っている。8這次第:この光景。

 

尋尋(ふらふら)覓覓(ぶらぶら)冷冷(さむざむ)清清(ひえびえ)悽悽(そわそわ)惨惨(ザワザワ)戚戚(ぞわぞわ)

(ふっ)(あたたか)()た寒い時候(ころ)(もっと)難将息(こたえ)る。

三杯両盞(にさんばい)淡酒(うすざけ)で、(どうやっ)(たえ)ようか()の、晚来(ゆうどき)(つよ)さに。

4雁は()ってしまっ()(ほんとう)傷心(かなし)い、(おもいがけ)(あれ)旧時(むかし)相識(かおなじみ)

 

満地(そこらじゅう)黄花(きくのはなびら)堆積(ちりつも)る、憔悴(やつ)れて()れて、如今(いま)や誰か()るだろうか、堪摘(つんでやろ)うなんて。

窓児(まどべ)守着(みまもりなが)ら、独自(ひとり)(くら)くなるのを怎生(どうやっ)()てばいい。

梧桐(アオギリ)に更に細雨(こさめ)(くわわっ)て、黄昏(たそがれ)(なっ)て、点点(ぽつぽつ)滴滴(パラパラ)

()次第(さま)は、(どうし)て一個の愁の字で了得(おさま)りましょう。


shēng shēng màn

1 xún xún mì mì,lěng lěng qīng qīng,qī qī cǎn cǎn qī qī.
2 zhà nuǎn hái hán shí hou,zuì nán jiāng xī.
3 sān bēi liǎng zhǎn dàn jiǔ,zěn dí tā,wǎn lái fēng jí.
4 yàn guò yě,zhèng shāng xīn,què shì jiù shí xiāng shí.

5 mǎn dì huáng huā duī jī,qiáo cuì sǔn,rú jīn yǒu shuí kān zhāi.
6 shǒu zhe chuān ér,dú zì zěn shēng dé hēi.
7 wú tóng gèng jiān xì yǔ,dào huáng hūn,diǎn diǎn dī dī.
8 zhè cì dì,zěn yí gè chóu zì liǎo dé.

280酔花陰(李清照)

酔花陰  李清照

1薄霧濃雲愁永昼、瑞脳腦銷金獣。
2佳節又重陽、玉枕紗厨、半夜涼初透。

3東籬把酒黄昏後、有暗香盈袖。
4莫道不消魂、簾巻西風、人比黄花瘦。

1うすい霧、濃い雲、ながい昼を愁う、瑞腦が香炉で消える。
2よい時だ、また重陽の、玉の枕に紗のとばり、夜更けに涼しさがやっと透けてくる。

3東のまがきで酒を手にする、黄昏ののち、ほのかな香りが袖に満ちる。
4寂しくないと言ってはいけない、簾が秋風に巻きあげられ、私は黄菊よりも瘦せているのだから。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
1瑞脳:「龍脳」ともいう、結晶で、香料の一種。 銷:「噴」とするテキストもある。 金獣:獣の形をした銅の香炉。 2紗厨:紗のとばり。蚊よけに用いる。 4比:「似」とするテキストもある。

 

1薄い霧、濃い雲、(なが)い昼を愁う、瑞腦が金獣(こうろ)()える。

佳節(よいとき)だ、()重陽(ちょうよう)、玉の枕に紗の(とばり)半夜(よふけ)に涼しさが(やっ)(すけ)る。

 

3東の(まがき)で酒を(てにす)る、黄昏の後、(ほのか)な香りが有る、袖に()ちて。

不消魂(さびしくな)いと()っては(いけな)い、簾が西風(あきのかぜ)に巻きあげられ、(わたし)黄花(きく)より()も瘦せているのだから。


zuì huā yīn

1 bó wù nóng yún chóu yǒng zhòu,ruì nǎo nǎo xiāo jīn shòu.
2 jiā jié yòu chóng yáng,yù zhěn shā chú,bàn yè liáng chū tòu.

3 dōng lí bǎ jiǔ huáng hūn hòu,yǒu àn xiāng yíng xiù.
4 mò dào bù xiāo hún,lián juǎn xī fēng,rén bǐ huáng huā shòu.

279鳳凰台上憶吹簫(李清照)

鳳凰台上憶吹簫  李清照

1香冷金猊、被翻紅浪、起来慵自梳頭。
2任宝奩塵満、日上簾鉤。
3生怕離懐別苦、多少事・欲説還休。
4新来瘦、非干病酒、不是悲秋。

5休休。
6者回去也、千万遍陽関、也則難留。
7念武陵人遠、煙鎖秦楼。
8惟有楼前流水、応念我・終日凝眸。
9凝眸処・従今又添、一段新愁。

1香が銅の獅子の香炉で冷え、しとねには赤い波が翻る、起きて自分で髪を梳くのもものうい。
2化粧箱が埃まみれなのに任せる、太陽は簾の鉤のあたりまで昇った。
3怖い、別れの苦しみ、いろいろな事を、言いかけてはまたやめる。
4近ごろ痩せたのは、酒を飲んで病になったせいではなく、秋を愁いているからでもない。

5やめた、やめた。
6今回もあの人は帰ってしまうのだ、千万遍も「陽関」を歌っても、やはり引き留めるのは難しい。
7思う、こがれる人は遠く、靄がたかどのを閉ざす。
8ただある、建物の前を流れる川、きっと私を憐れむだろう、終日まなこを凝らしている、と。
9まなこを凝らすとき、今からまた加わる、ひとしきり新しい愁いが、と。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
1金猊:獅子の形をした銅の香炉。 紅浪:錦のふとんの皺。柳永「鳳棲桐」に「鴛鴦繍被翻紅浪(鴛鴦の繍被 紅浪を翻す)」とある。 5休休:やめた、やめた。 6者:これ。 陽関:王維の「送元二使安西」詩の「勧君更尽一杯酒、西出陽関無故人(君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒、西のかた陽関を出づれば故人無からん)」のこと。唐代に盛んに歌われ、後に惜別の曲をいうようになった。 7武陵人:陶潜(陶淵明)の「桃花源記」の故事。借りて、慕っている人。 秦楼:古詩「陌上桑」の「日出東南隅、照我秦氏楼(日は東南の隅に出で、我が秦氏の楼を照らす)」の楼。借りて、自分がいる処。あるいは詞調名から、秦の穆公の娘、弄玉の故事※としても、通じる。

※簫を吹くのが上手な簫史に嫁ぎ、簫史から鳳凰の鳴き声を教えてもらい、弄玉が簫を吹くと鳳凰が来て屋根の上に止まるようになった。穆公は二人のために鳳台という物見台を作ってやった。夫婦はその台から下りずに数年を過ごし、その後、二人とも鳳凰に乗って飛び去ってしまった。漢・劉向『列仙伝』に見える。

1香が(どう)(ししのこうろ)に冷え、(しとね)には紅浪(あかいなみ)(ひりがえ)る、起来(おき)(じぶん)(かみ)()くのも(ものう)い。

宝奩(けしょうばこ)塵満(ほこりまみれ)なのに任せる、(たいよう)は簾の(かぎ)まで上った。

生怕(こわ)い、離別(わかれ)懐苦(くるし)み、多少(いろいろ)な事を、()おう()として()(やめ)る。

新来(ちかごろ)瘦せたのは、酒を()んで病になったせいで()く、秋を愁いているからでも不是()い。

 

(やめ)た、(やめ)た。

(こんかい)回去(かえ)ってしまうのだ()千万遍(いくど)の「陽関」、やはり(也則)(ひきとめ)めるのは難しい。

(おも)う、武陵人(こがれるひと)は遠く、(もや)が秦楼を(とざ)す。

()だ有る、楼前に流れる(かわ)(きっ)(わたし)(あわれ)むだろう、終日(ひがな)(まなこ)(こら)している、と。

(まなこ)(こら)(とき)、今から()()(くわ)わる、一段の新しい愁いが、と。


fèng huáng tái shàng yì chuī xiāo

1 xiāng lěng jīn ní,bèi fān hóng làng,qǐ lái yōng zì shū tóu.
2 rèn bǎo lián chén mǎn,rì shàng lián gōu.
3 sheng pà lí huái bié kǔ,duō shǎo shì、yù shuō hái xiū.
4 xīn lái shòu,fēi gàn bìng jiǔ,bú shì bēi qiū.

5 xiū xiu.
6 zhě huí qù yě,qiān wàn biàn yang guān,yě zé nán liú.
7 niàn wǔ líng rén yuǎn,yān suǒ qín lóu.
8 wéi yǒu lóu qián liú shuǐ,yìng niàn wǒ、zhōng rì níng móu.
9 níng móu chù、cóng jīn yòu tiān,yí duàn xīn chóu.

278金明池(僧揮)

金明池  僧揮

1天闊雲高、渓横水遠、晚日寒生軽暈。
2閑階静・楊花漸少、朱門掩・鶯声猶嫩。
3悔匆匆・過却清明、旋占得余芳、已成幽恨。
4却幾日陰沈、連宵慵困、起来韶華都尽。

5怨入双眉閑闘損、乍品得情懐、看承全近。
6深深態・無非自許、厭厭意・終羞人問。
7争知道・夢裏蓬萊、待忘了余香、時伝音信。
8縦留得鶯花、東風不住、也則眼前愁悶。

1天は広く雲は高く、川は目の前、流れる水は遠く、夕暮れの太陽は寒く軽く暈(かさ)がかかっている。
2ひとけのない階段は静か、柳のわたが次第に少なくなり、門は閉ざされ、鶯の声がまだ柔らかい。
3悔いる、そそくさと清明をすぎてしまった。あわてて残っている花を留めようとするが、すでにひそかな恨みとなっている。
4思いがけず幾日も沈み込み、毎夜ものうく、起きて見れば花はすべて散っていた。

5怨みを眉に込め、むだにやつれ、ふっと懐かしさを味わう、仔細に見ればすべて馴染みな風景。
6心底がっかりする、どれも自ら望んだこと、あきあきした気持ちで、ずっと人に問うのも恥ずかしい。
7あなたはどうして分かるだろう、夢の中の蓬萊で、残り香を忘れても、たまに手紙が届くのを私が待っていよう、とは。
8たとえ鶯と花を留められても、春風は留まらない、やはり目の前には愁い。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
5看承全近:子細に見ると、とても親しい。 8也則:依然として。

1天は(ひろ)く雲は高く、(かわ)(めのまえ)、水は遠く、(ゆうぐれ)(たいよう)は寒く軽く(かさ)が生じる。

(ひとけな)(きざはし)は静か、楊花(やなぎのわた)(しだい)に少くなり、朱門は(とざ)され、鶯の声が()(やわら)かい。

3悔いる、匆匆(そそくさ)と清明を過却(すごしてしま)った、(あわて)(のこ)っている(はな)占得(とどめ)ようとするが、(すで)幽恨(うらみ)と成っている。

(おもいがけ)ず幾日も陰沈(しずみこ)み、連宵(まいよ)慵困(ものう)く、起来(おき)てみれば韶華(はな)(すべ)()っていた。

 

5怨みを双眉(まゆ)()め、(むだ)闘損(やつ)れ、(ふっ)情懐(おもい)品得(あじわ)う、看承(しさいにみ)れば全て(なじ)み。

深深(しんそこ)(がっかり)する、無非(どれも)自ら(のぞ)んだこと、厭厭(あきあき)した(きもち)で、(ずっ)と人に問うのも(はずか)しい。

(どうし)知道(わか)るだろう、夢の(なか)の蓬萊で、余香(のこりが)忘了(わすれ)ても、(たま)音信(てがみ)(とど)くのを待っていよう、とは。

(たと)え鶯と花を留得(とどめ)られても、東風(はるかぜ)不住(とどまらな)い、やはり(也則)眼前には愁悶(うれ)い。


jīn míng chí

1 tiān kuò yún gāo,xī héng shuǐ yuǎn,wǎn rì hán shēng qīng yūn.
2 xián jiē jìng、yáng huā jiàn shǎo,zhū mén yǎn、yīng shēng yóu nèn.
3 huǐ cōng cōng、guò què qīng míng,xuàn zhàn dé yú fāng,yǐ chéng yōu hèn.
4 què jǐ rì yīn shěn,lián xiāo yōng kùn,qǐ lái sháo huá dōu jìn.

5 yuàn rù shuāng méi xián dòu sǔn,zhà pǐn dé qíng huái,kàn chéng quán jìn.
6 shēn shēn tài、wú fēi zì xǔ,yàn yan yì、zhōng xiū rén wèn.
7 zhēng zhī dào、mèng lǐ péng lái,dài wàng liǎo yú xiāng,shí chuán yīn xìn.
8 zòng liú dé yīng huā,dōng fēng bú zhù,yě zé yǎn qián chou mèn.

277紫萸香慢(姚雲文)

紫萸香慢  姚雲文

1近重陽・偏多風雨、絶憐此日暄明。
2問秋香濃未、待携客・出西城。
3正自羈懐多感、怕荒台高処、更不勝情。
4向樽前又憶・漉酒插花人、只座上・已無老兵。

5淒清。
6浅酔還醒、愁不肯・与詩平。
7記長楸走馬、雕弓●柳、前事休評。
8紫萸一枝伝賜、夢誰到・漢家陵。
9尽烏紗・便随風去、要天知道、華髮如此星星、歌罷涕零。

1重陽が近くなって、わざわざ風雨が多かったが、この日はよく晴れてまったく素晴らしい。
2尋ねる、秋の香りは濃くなったかまだか、客を連れて、西城を出てみようか。
3ちょうど独りで旅の思いはあふれ、荒れた台の高処では、さらに思いに堪えないだろう。
4酒宴でまた思う、酒を漉し花を插した人を、ただ席にはすでに老兵もいない。

5わびしい。
6すこし酔ってまた醒める、愁いは詩と同じとは言えない、もっと強い。
7思い出す、喬木に沿って馬を走らせ、弓で柳を射た、昔のことは語るのはやめよう。
8紫萸の一枝が下賜されても、夢で誰が漢家の陵墓に到っただろう。
9すべて帽子をそのまま風に随って飛ばし、天に知らせよう、白髪がこれほどにもバラバラしている、と。歌い終わって、涙がこぼれる。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
3荒台:彭城の戯馬台、宋の武帝が重陽の節句に登った。 4漉酒:陶淵明は葛の頭巾で酒を漉した。「漉」は濾過すること。 老兵:晋の謝奕は桓温に酒を強要したが、逃げられたので、桓温の一兵士と飲み、「一老兵を失い、一老兵を得た」と言った。借りて、酒飲み友だちをいう。 7楸:落葉の喬木、高さは三十メートルにもなる。 ●(「扌」+「竹」の下に「乍」):音は「責」、射ること。 8紫萸:茱萸。重陽の時に、これを帯びて邪を避ける。 9烏紗随風:孟嘉が帽子を落とした故事。劉克荘216「賀新郎 九日」の注、参照。

1重陽が近づき、(わざわ)ざ風雨が多い、()の日は暄明(よくはれ)れて(まった)(すばら)しい。

(たず)ねる、秋の香りは濃くなったか(まだ)か、客を()れて、西城を出て()ようか。

(ちょう)(ひとり)羈懐(たびのおもい)多感(あふ)れ、荒れた台の高処では、更に(おもい)不勝(たえな)(だろ)う。

樽前(しゅえん)()()(おも)う、酒を漉し花を插した人を、只だ座上(せき)には已に老兵も(いな)い。

 

淒清(わび)しい。

(すこ)し酔って()た醒める、愁いは詩()(おな)じとは不肯(いえな)い。

(おもいだ)す、長楸(きょうぼく)に馬を走らせ、雕弓(ゆみ)で柳を()た、前事(むかしのこと)(かた)るのは(やめ)よう。

8紫萸の一枝が伝賜(くだ)されても、夢で誰が漢家の(みささぎ)に到っただろう。

(すべ)烏紗(ぼうし)便(そのま)ま風に随って去らせ、天に知道(しら)よう()華髮(しらが)如此(これほど)にも星星(ぱらぱら)、歌い(おわ)って(なみだ)(こぼ)れる。


zǐ yú xiāng màn

1 jìn chóng yáng、piān duō fēng yǔ,jué lián cǐ rì xuān míng.
2 wèn qiū xiāng nóng wèi,dài xié kè、chū xī chéng.
3 zhèng zì jī huái duō gǎn,pà huāng tái gāo chù,gèng bú shèng qíng.
4 xiàng zūn qián yòu yì、lù jiǔ chā huā rén,zhǐ zuò shàng、yǐ wú lǎo bīng.

5 qī qīng.
6 qiǎn zuì hái xǐng,chóu bù kěn、yǔ shī píng.
7 jì cháng qiū zǒu mǎ,diāo gōng zé liǔ,qián shì xiū píng.
8 zǐ yú yì zhī chuán cì,mèng shuí dào、hàn jiā líng.
9 jìn wū shā、biàn suí fēng qù,yào tiān zhī dào,huá fà rú cǐ xīng xīng,gē bà tì líng.

276六醜(彭元遜)

六醜  彭元遜

楊花

1似東風老大、那復有・当時風気。
2有情不収、江山身是寄、浩蕩何世。
3但憶臨官道、暫来不住、便出門千里。
4痴心指望回風墜、扇底相逢、釵頭微綴。
5他家万条千縷、解遮亭障駅、不隔江水。

6瓜洲曾艤、等行人歳歳、日下長秋、城烏夜起。
7帳廬好在春睡、共飛帰湖上、草青無地。
8愔愔雨・春心如膩、欲待化・豊楽楼前、帳飲青門都廃。
9何人念・流落無幾、点点摶作雪綿松潤、為君浥涙。

柳のわた

1春風は老けたようだ、当時の気合いがまったくない。
2思いは収まらない、江山いたるところ身を寄せるべし、悠々と何世も。
3ただ思う、官道に臨んで、しばらくするといたたまれなくなり、門を出て千里を行った。
4ひたむきにつむじ風をめざして落ち、扇の下で会い、かんざしを挿す頭にそっとはりついた。
5よその柳は千枝万枝、亭や駅を遮ることはできるが、川を渡ることはできない。

6瓜洲でかつて船泊まりし、旅人を待った、くる年もくる年も、日が落ちた長い秋、街の烏が夜に起きるころ。
7部屋ではまさに春の眠りの中、ともに湖上に飛び帰ろう、そこは草が青く茂っている、そこらじゅうが。
8音もなく雨が降る、春も嫌そうだ、ただ豊楽楼の前で消えようとするが、送別する青門はすべて廃れてしまった。
9誰が思うだろう、さすらって幾ばくもなく、点々と雪のように柔らかく丸まって、君のために涙をぬぐおうとは。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
3官道:官修の駅や道。 出門千里:辛棄疾「水調歌頭」に、淳煕丁酉、「一笑出門去、千里落花風(一笑して門を出でて去れば、千里の落花の風)」とある。 6艤:船が停泊すること。 8愔愔:静かで音のないさま。 豊楽楼:南宋の臨安にあった著名な楼観。杭州金涌門外を北に向かうと、その楼は「美しくそびえて、画のように湖を望み、峰々は連なってどこまでも青く、柳の岸と花咲く入江を欄干が廻る。台榭は飛びあがるように遠近に連なり、遊覧の船や馬が行き来し、菱の実採りの乙女や漁師が歌いながら、しばしば楼前に集まる」という(『西湖遊覧志』)。 青門:漢代の長安の覇城門、後に広く都の城門をいう。 9浥:潤す。 涙:涙で物を湿らせる。涙を拭う意。

楊花(やなぎのわた)

 

東風(はるかぜ)老大(ふけ)(よう)(どうし)()た有ろうか、当時の風気が。

有情(おもい)不収(おさまらな)い、江山に身を(いった)い寄せよ、浩蕩(ゆうゆう)と何世も。

()(おも)う、官道に臨んで、(しばら)くすると来不住(いたたまれな)くなり、便(そこ)で門を出て千里。

痴心(ひたむき)回風(つむじかぜ)指望(めざ)して()ち、扇の底で相逢()い、(かんざし)の頭に(そっ)(はりつ)く。

他家(よそ)のやなぎは万条千縷(あまた)、亭や駅を遮障(さえぎ)ることが(でき)るが、江水(かわ)不隔(わたれな)い。

 

6瓜洲で曾て(ふなどまり)し、行人(たびびと)()った、くる歳もくる歳も、日が()ちた長い秋、(まち)(からす)が夜に起きるころ。

帳廬(へや)では(まさ)に春の(ねむり)(なか)、共に湖上に飛び帰ろう、草が青い、無地(そこらじゅう)が。

愔愔(おともな)い雨、春心(はる)如膩(いやそう)だ、()だ豊楽楼の前で()よう()とするが、帳飲(そうべつ)する青門は(すべ)て廃れてしまった。

何人(だれ)(おも)うだろう、流落(さすら)って無幾(いくばくもな)く、点点と雪綿(ゆき)のように松潤(やわらか)摶作(まるま)って、君の為に涙を(ぬぐ)うとは


liù chǒu

yáng huā

1 sì dōng fēng lǎo dà,nà fù yǒu、dāng shí fēng qì.
2 yǒu qíng bù shōu,jiāng shān shēn shì jì,hào dàng hé shì.
3 dàn yì lín guān dào,zàn lái bú zhù,biàn chū mén qiān lǐ.
4 chī xīn zhǐ wàng huí fēng zhuì,shàn dǐ xiāng féng,chāi tóu wēi zhuì.
5 tā jiā wàn tiáo qiān lǚ,jiě zhē tíng zhàng yì,bù gé jiāng shuǐ.

6 guā zhōu céng yǐ,děng xíng rén suì suì,rì xià cháng qiū,chéng wū yè qǐ.
7 zhàng lú hǎo zài chūn shuì,gòng fēi guī hú shàng,cǎo qīng wú dì.
8 yīn yīn yǔ、chūn xīn rú nì,yù dài huà、fēng lè lóu qián,zhàng yǐn qīng mén dōu fèi.
9 hé rén niàn、liú luò wú jǐ,diǎn diǎn zhuān zuò xuě mián sōng rùn,wèi jūn yì lèi.

275疏影(彭元遜)

疏影  彭元遜

尋梅不見

1江空不渡。
2恨蘼蕪杜若、零落無数。
3遠道荒寒、婉娩流年、望望美人遅暮。
4風煙雨雪陰晴晚、更何須・春風千樹、尽孤城・落木蕭蕭、日夜江声流去。

5日晏山深聞笛、恐他年流落、与子同賦。
6事闊心違、交淡媒労、蔓草沾衣多露。
7汀洲窈窕余醒寐、遺佩環・浮沈澧浦。
8有白鷗・淡月微波、寄語逍遙容与。

梅を尋ねたが会えなかった

1川は広く船は渡らない。
2恨む、蘼蕪も杜若も、ほとんど枯れている。
3遠い道は荒れて寒く、知らぬ間に時は流れ、あの人を待ちわびて暮れてしまった。
4風雨で荒れて晴れたり曇ったりの春の暮れ、さらにどうして待つだろうか、春風が千樹に吹き、ことごとく街は落ち葉がサラサラ、日夜、川音とともに流れ去るのに。

5日暮れに山奥で聞く笛、きっと私もいつか落ちぶれて、この「梅花落」曲と同じさまになるのだろう。
6出来事は多く心に違い、交わりは淡く仲立ちは無駄骨、蔓草が衣を露で濡らす。
7汀の乙女に私は目覚めて、おびたまを贈ろうとする、澧浦に投げ入れて。
8白鷗がいる、淡い月とさざ波、言葉を気ままに寄せても許してくれるだろうか。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
2蘼蕪・杜若:香草の名。『楚辞』に見える。 3婉娩:柔らかいさま。派生義で、知らず知らず。 4「落木」二句:杜甫「登高」詩に「無辺落木蕭蕭下、不尽長江滾滾来(無辺の落木 蕭蕭として下り、不尽の長江 袞袞として来たる)」とある。 5聞笛:笛曲に「梅花落」がある。 6交淡媒労:『楚辞』九歌「湘君」に「心不同兮媒労、恩不甚兮軽絶(心同じからざれば媒労し、恩 甚しからざれば軽く絶ゆ)」とある。 「蔓草」句:『詩経』鄭風「野有蔓草」に「野有蔓草、零露漙兮(野に蔓草有り、零露漙たり)」とある。 7汀洲窈窕:『詩経』周南「関雎」に「関関雎鳩、在河之洲。窈窕淑女、君子好逑(関関たる雎鳩は、河の洲に在り。窈窕たる淑女は、君子の好逑)」とある。 「遺佩環」句:『楚辞』九歌「湘君」に「捐余玦兮江中、遺余佩兮醴浦(余が玦を江中に捐て、余が佩を醴浦に遺つ)」とある。 8逍遙容与:『楚辞』九歌「湘君」に「時不可兮再得、聊逍遥兮容与(時は再び得べからず、聊く逍遙して容与せん)」とある。

梅を尋ねたが不見(あえな)かった

 

(かわ)(ひろ)不渡(わたらな)い。

2恨む、蘼蕪も杜若も、無数(ほとんど)零落()れている。

3遠い道は荒れて寒く、婉娩(しらぬま)(とき)は流れ、美人(あのひと)望望(まちわび)遅暮()れた。

風煙雨雪(あれ)(くも)ったり晴れたりの(くれ)、更(どうし)()とうか、春風の千樹、(ことごと)孤城(まち)落木(おちば)蕭蕭(さわさわ)、日夜、(かわ)(おと)が流れ去る。

 

日晏(ひぐれ)に山(おく)で聞く笛、(きっ)他年(いつ)流落(おちぶ)れて、(きょく)()同じ(さま)になる。

(できごと)(おお)く心に(たが)い、(まじわり)は淡く(なかだち)(むだぼね)、蔓草が衣を多露(つゆ)(ぬら)す。

汀洲(みぎわ)窈窕(おとめ)(わたし)醒寐(めざめ)て、佩環(おびたま)(おく)ろうとする、澧浦に浮沈(なげいれ)て。

8白鷗が()る、淡い月と微波(さざなみ)(ことば)逍遙(きまま)に寄せても容与(ゆる)してくれるだろうか。


shū yǐng

xún méi bú jiàn

1 jiāng kòng bú dù.
2 hèn mí wú dù ruò,líng luò wú shù.
3 yuan dào huāng hán,wǎn wǎn liú nián,wàng wàng měi rén chí mù.
4 fēng yān yǔ xuě yīn qíng wǎn,gèng hé xū、chūn fēng qiān shù,jìn gū chéng、luò mù xiāo xiāo,rì yè jiāng shēng liú qù.

5 rì yàn shān shēn wén dí,kǒng tā nián liú luò,yǔ zǐ tóng fù.
6 shì kuò xīn wéi,jiāo dàn méi láo,màn cǎo zhān yī duō lù.
7 tīng zhōu yǎo tiǎo yú xǐng mèi,yí pèi huán、fú chén lǐ pǔ.
8 yǒu bái ōu、dàn yuè wēi bō,jì yǔ xiāo yáo róng yǔ.

274法曲献仙音(王沂孫)

法曲献仙音  王沂孫

聚景亭梅、次草窓韻

1層緑峨峨、繊瓊皎皎、倒圧波痕清浅。
2過眼年華、動人幽意、相逢幾番春換。
3記喚酒尋芳処、盈盈褪妝晚。

4已消黯。
5況淒涼・近来離思、応忘却・明月夜深帰輦。
6荏苒一枝春、恨東風・人似天遠。
7縦有残花、灑征衣・鉛涙都満。
8但殷勤折取、自遣一襟幽怨。

聚景亭の梅。草窓に次韻する。

1幾重も緑の梅がそびえ、玉のように白梅が輝き、小さな波あとに映り込んでいる。
2あっという間に月日は過ぎ、人の気持ちを動かす、会ってからいくたび春が代わっただろう。
3思い出す、酒を求め花を訪ねたとき、ぐずぐずと色あせるのも遅くて。

4いまはすでにひっそりとしている。
5ましてわびしい、近頃の別れの思い、きっと忘れてしまっただろう、明月の夜、遅く車で帰ったこと。
6柔らかい一枝の春、春風を恨む、人は天と同じ遠い。
7たとえ残った花があったとしても、旅の衣を潤し、涙にすべて満ちている。
8ただ念入りに折り取って、独り胸中の恨みを送ろう。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
0聚景亭:杭州の聚景園にある亭。草窓詞では、題に「雪香亭」とあり、同じものかどうか未詳。園は南宋の孝宗の時代に建てられ、四代の皇帝が訪れた。跡地は清波門外にあり、今の柳浪聞鶯公園一帯。周密の原詞は「松雪飄寒、峰雲吹東、紅破数枝春浅。襯舞台荒、浣妝池冷、凄凉市朝軽換。欲花与人凋謝、依依歳華晚。  共凄黯。問東風・幾番吹夢、応慣識・当年翠屏金輦。一片古今愁、但廃翠・平煙空遠。無語消魂、対斜陽・衰草涙満。又西泠残笛、低送数声春怨。」 1層緑:緑の梅をいう。 繊瓊:白梅をいう。

聚景亭の梅。草窓の韻に次する。

 

(いくえ)も緑が峨峨(そび)え、繊瓊(たま)皎皎(かがや)き、清浅(ちい)さな波痕に倒圧(うつりこ)む。

過眼(あっというま)年華(つきひ)、人の幽意(きもち)を動かす、相逢()ってから幾番(いくたび)春が換っただろう。

(おもいだ)す、酒を(もと)(はな)を尋ねた(とき)盈盈(ぐずぐず)褪妝(いろあせ)るのも(おそ)くて

 

(すで)消黯(ひっそり)と。

(まし)淒涼(わび)しい、近来(ちかごろ)(わか)れの思い、(きっ)忘却(わすれてしま)っただろう、明月の夜(おそ)(くるま)で帰った。

荏苒(やわらか)い一枝の春、東風(はるかぜ)を恨む、人は天と(おな)じく遠い。

(たと)え残った花が有っても、征衣(たびのころも)(うるお)し、鉛涙(なみだ)(すべ)て満ちている。

()殷勤(ねんいり)に折り取って、(ひと)一襟(むね)にある幽怨(うらみ)(おく)ろう。


fǎ qǔ xiàn xiān yīn

jù jǐng tíng méi,cì cǎo chuān yùn.

1 céng lǜ é é,xiān qióng jiǎo jiǎo,dǎo yā bō hén qīng qiǎn.
2 guò yǎn nián huá,dòng rén yōu yì,xiāng féng jǐ fān chūn huàn.
3 jì huàn jiǔ xún fāng chǔ,yíng yíng tùn zhuāng wǎn.

4 yǐ xiāo àn.
5 kuàng qī liáng、jìn lái lí sī,yìng wàng què、míng yuè yè shēn guī niǎn.
6 rěn rǎn yì zhī chūn,hèn dōng fēng、rén sì tiān yuǎn.
7 zòng yǒu cán huā,sǎ zhēng yī、qiān lèi dōu mǎn.
8 dàn yīn qín zhé qǔ,zì qiǎn yì jīn yōu yuàn.

2022年10月10日月曜日

273高陽台(王沂孫)

高陽台  王沂孫

和周草窓寄越中諸友韻

1残雪庭陰、軽寒簾影、霏霏玉管春葭。
2小帖金泥、不知春是誰家。
3相思一夜窓前夢、奈箇人・水隔天遮。
4但淒然・満樹幽香、満地横斜。

5江南自是離愁苦、況遊驄古道、帰雁平沙。
6怎得銀箋、殷勤説与年華。
7如今処処生芳草、縦憑高・不見天涯。
8更消他、幾度東風、幾度飛花。

周草窓の「寄越中諸友」の韻に和した

1なごり雪の庭の陰、うすら寒さの簾の影、びっしりと玉管の春の灰。
2小さな帖子詞の金泥は、春が誰の家にきたのか知らない。
3互いに思う一夜、窓辺の夢、あなたが川と空の向こうにいるのをどうしようもない。
4ただわびしくも、樹いっぱいにひそかな香り、地面いっぱいに枝の影。

5江南はもともと別れの愁い、まして馬で遊んだ古道、雁の降りる岸は。
6どうやって手紙に書こう、丁寧にこの景色を伝えたい。
7いまあちこちで若草が生え、たとえ高いところでもたれても、天の果ては見えない。
8さらにやりすごすのか、いくたびの春風を、いくたびの風に散る花びらを。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
0周草窓:周密、号は草窓、王沂孫の詞友。当時はそれぞれ杭州と越州にいた。草窓詞「高陽台 寄越中諸友」は、「小雨分江、残寒迷浦、春容浅入蒹葭。雪霽空城、燕帰何処人家。夢魂欲渡蒼茫去、怕夢軽・還被愁遮。感流年、夜汐東還、冷照西斜。  萋萋望極王孫草、認雲中煙樹、鷗外春沙。白髪青山、可憐相対蒼華。帰鴻自趁潮回去、笑倦遊・猶是天涯。問東風、先到垂陽、後到梅花」。 1玉管春葭:古代の節気を測る器具を灰琯という。葦(葭)の茎の中の薄い膜を灰にして、十二律の玉管の中に置き、特設した室内の木の机に置いて、ある節気になると自動的に相応する管の中の灰が外へ飛び出る仕掛け。『後漢書』「律暦志」に見える。 2小帖金泥:宋代の風俗で、立春の日には、宮中では大臣に命じて皇帝の后妃たちの住む殿閣に、金泥で「帖子詞」を書いた。士大夫の間でも、互いに書いて送りあった。

周草窓の「寄越中諸友」の韻に和した

 

残雪(なごりゆき)の庭の陰、軽寒(うすらざむさ)の簾の影、霏霏(びっしり)と玉管の春の(はい)

2小さな帖の金泥は、春が(いった)い誰の家にきたのか不知(しらな)い。

相思(おも)う一夜、窓前(まどべ)の夢、箇人(あなた)水天(かわとそら)隔遮(むこう)にいるのを(どうしようもな)い。

()淒然(わび)しくも、満樹(きいっぱい)幽香(ひそかなかおり)満地(じめんいっぱい)横斜(えだのかげ)

 

5江南は自是(もとも)(わかれ)愁苦(うれい)(まし)(うま)遊んだ古道、雁帰る平沙(きし)は。

(どうやっ)銀箋(てがみ)()こう、殷勤(ていねい)にこの年華(けしき)説与(つたえ)たい。

如今(いま)処処(あちこち)芳草(わかくさ)が生え、(たと)え高いところに(もた)れても、天涯(てんのはて)不見(みえな)い。

8更に消他(やりすご)すのか、幾度(いくたび)東風(はるかぜ)を、幾度(いくたび)()(はなびら)を。


gāo yáng tái

hé zhōu cǎo chuān jì yuè zhōng zhū yǒu yùn

1 cán xuě tíng yīn,qīng hán lián yǐng,fēi fēi yù guǎn chūn jiā.
2 xiǎo tiē jīn ní,bù zhī chūn shì shuí jiā.
3 xiāng sī yí yè chuān qián mèng,nài gè rén、shuǐ gé tiān zhē.
4 dàn qī rán、mǎn shù yōu xiāng,mǎn dì héng xié.

5 jiāng nán zì shì lí chou kǔ,kuàng yóu cōng gǔ dào,guī yàn píng shā.
6 zěn děi yín jiān,yīn qín shuō yǔ nián huá.
7 rú jīn chù chù shēng fang cǎo,zòng píng gāo、bú jiàn tiān yá.
8 gèng xiāo tā,jǐ dù dōng fēng,jǐ dù fēi huā.

272長亭怨慢(王沂孫)

長亭怨慢  王沂孫

重過中庵故園

1泛孤艇・東皋過遍。
2尚記当日、緑陰門掩。
3屐齒莓苔、酒痕羅袖事何限。
4欲尋前跡、空惆悵・成秋苑。
5自約賞花人、別後総・風流雲散。

6水遠。
7怎知流水外、却是乱山尤遠。
8天涯夢短、想忘了・綺疏雕檻。
9望不尽・苒苒斜陽、撫喬木・年華将晚。
10但数点紅英、猶識西園淒婉。

再び中庵の庭を通りかかる

1船を浮かべて、東の岸をあまねく通りかかる。
2まだ覚えている、あの日、木陰に門がおおわれていた。
3苔にくつのあと、酒のあとは薄絹の袖に浸み、楽しみ事は限りなく。
4むかし遊んだあとを訪ねようとして、むなしく嘆く、秋の庭のようになっていることを。
5花を賞でる約束をした人は、別れた後はすべて、風が流れ雲が散るよう。

6川は遙か遠くへ流れる。
7分かるはずもない、流れの向こう、思いがけず山々はもっと遙か遠いとは。
8天の果てで見る夢は短い、故郷の窓や手すりを忘れてしまったのかと思う。
9見渡す限りのやわらかい夕日が、喬木を撫でる、年は暮れようとしている。
10ただいくつかの赤い花びらだけは、まだ荒れはてた西園を知っている。

蔡義江『宋詞三百首全解』注:
0中庵:唐圭璋箋に「元の劉敏中、号は中庵、『中庵楽府』がある」といい、王筱芸は「中庵、あるいは元の劉敏中か。ただ劉敏中は金から元に入った人で、その詞と『元史』に載せられている事績を見るに、碧山(王沂孫)とは交渉がなかったようである。この中庵は別人で、碧山の友人かも知れず、事績は不明」(『唐宋詞鑑賞辞典』2246頁)という。 4成秋苑:李賀「河南府試十二月楽詞」に「梨花落尽成秋苑(梨花落ち尽くして秋苑と成る)」とある。

(ふたた)び中庵の故園(にわ)(とおりかか)

 

孤艇(ふね)(うか)べて、東の(きし)(あまね)(とおりかか)る。

()(おぼ)えている、当日(あのひ)緑陰(こかげ)に門が掩れていた。

莓苔(こけ)屐齒(くつのあと)、酒の(あと)(うすぎぬ)の袖に、(たのしみ)何限(かぎりな)く。

(むかし)の跡を尋ねよう()として、空しく惆悵(なげ)く、秋の(にわ)のように成っていることを。

(おのずか)ら花を賞でる(やくそく)をした人は、別れた後は(すべ)て、風流れ雲散るよう。

 

(かわ)(はる)かに。

怎知(わかるはずもな)い、(ながれ)(むこう)却是(おもいがけ)乱山(やまやま)(もっ)(はる)かとは。

天涯(てんのはて)の夢は短い、綺疏(まど)雕檻(てすり)忘了(わすれてしまっ)たと想う。

望不尽(みわたすかぎり)苒苒(やわらか)斜陽(ゆうひ)、喬木を撫でる、年華(とし)()よう()としている。

10()数点(いくつか)(あか)(はなびら)だけは、()淒婉(あれはて)た西園を()っている。


cháng tíng yuàn màn

zhòng guò zhōng ān gù yuán

1 fàn gū tǐng、dōng gāo guò biàn.
2 shàng jì dāng rì,lǜ yīn mén yǎn.
3 jī chǐ méi tái,jiǔ hén luó xiù shì hé xiàn.
4 yù xún qián jì,kōng chou chàng、chéng qiū yuàn.
5 zì yuē shǎng huā rén,bié hòu zǒng、fēng liú yún sàn.

6 shuǐ yuǎn.
7 zěn zhī liú shuǐ wài,què shì luàn shān yóu yuǎn.
8 tiān yá mèng duǎn,xiǎng wàng liǎo、qǐ shū diāo jiàn.
9 wàng bú jìn、rǎn rǎn xié yáng,fǔ qiáo mù、nián huá jiāng wǎn.
10 dàn shǔ diǎn hóng yīng,yóu shí xī yuán qī wǎn.