2022年12月29日木曜日

白石詩014和転庵丹桂韻

和転庵丹桂韻

1野人復何知、
2自謂山沢好。
3来禆奉常議、
4識笳鼓羽葆。
5誰憐老垂垂、
6却入閙浩浩。
7営巣猶是寓、
8学圃何不早。
9淮桂手所植、
10漢甕躬自抱。
11花開不忍出、
12花落不忍掃。
13佳客夜深来、
14清尊月中倒。
15一禅両居士、
16更約践幽討。

 

転庵丹桂に和す

 

1野人るでしょう

2自ら山沢は(すばら)しいと謂うだけ。

奉常の議を(たすけた)いと

4笳鼓・羽葆を(わけ)

5誰が憐れむだろう、老垂垂(おいぼれ)て、

(かえ)って閙浩浩(がやがや)(した議論)に(くわ)わろう、とは。

7巣を営んでも(やは)(これ)(かりずまい)

(はたけ)を学ぶのに(どうし)不早(おそ)いことがあろう。

淮桂(キンモクセイ)(てづか)所植()え、

10漢甕(かめ)躬自(みずか)(かか)える。

11花が()けば出るに不忍(しのびな)い、

12花が()れば掃くに不忍(しのびな)い。

13(すばら)しい客が夜()けて来れば、

14清尊(さけ)(つきあかり)(した)(かたむ)ける。

15(ひとり)(ぜんし)(ふたり)の居士、

16更に(やくそく)して幽討(やまあるき)(でかけ)ましょう。


慶元三年(1197)、四十三歳の作。 0転庵:潘檉、字は徳久、号は転庵。 丹桂:桂の一種。葉はコノテガシワに似て、樹皮は赤い。月には桂樹が生えているといい、「丹桂」は月の別称でもある。 3奉常:宗廟の儀礼を司る。 4笳鼓:胡笳と胡鼓。「笳」は葦の葉で製った笛。もとは北方の胡楽だが、晋以降、天子の鹵簿(行列)で用いた。 羽葆:鳥の羽で飾った鼓。 8学圃:野菜作りを学ぶこと。 9淮桂:淮南の桂樹(キンモクセイ)。『楚辞』「招隠士」に「桂樹叢生兮山之幽」とある。また劉禹錫「楊柳枝」九首(其一)に「塞北梅花羌笛吹、淮南桂樹小山詞」とある。 10漢甕:漢水のはいった甕。『荘子』「天地篇」に「子貢南遊於楚、反於晋、過漢陰、見一丈人、方将為圃畦、鑿隧而入井、抱甕而出灌」とある。 躬自:自ら。 15一禅両居士:「一禅」は葛天民、「二居士」は白石と徳久を指すか。 16幽討:幽景をたずねる。奥深くたずねる。

2022年12月26日月曜日

白石詩019丁巳七月望湖上書事

丁巳七月望湖上書事

1白天碎碎如拆綿、
2黒天昧昧如陳玄。
3白黒破処青天出、
4海月飛来光尚湿。
5是夜太史奏月蝕、
6三家各自矜算術。
7或云七分或食既、
8或云食昼不在夕。
9上令御史登呉山、
10下視海門監月出。
11年来歴失無人修、
12三家之説誰為優。
13乍如破鏡光炯炯、
14漸若小児初食餅。
15時方下令厳禁銅、
16破鏡何為来海東。
17天辺有餅不可食、
18聞説飢民満淮北。
19是鏡是餅且勿論、
20須臾還我黄金盆。
21金盆当空四山静、
22平波倒浸雲天影。
23下連八表共此光、
24上接銀河通一冷。
25御史帰家太史眠、
26人間不聞鐘鼓伝。
27白石道人呼釣船、
28一瓢欲酌湖中天。
29荷葉擺頭君睡去、
30西風急送敲窓句。

丁巳七月、湖上を(なが)めて(できごと)を書いた

 

1白い(くも)碎碎(ちぎ)れて、()いた綿の(よう)

2黒い(くも)昧昧(ほのぐら)く、陳玄(すみ)(よう)

3白と黒の破れる処、青天(そら)(あらわ)れて、

4海に月が飛来し、光は()お湿っている。

5是の夜、太史は月蝕を奏し、

6三家は(それぞ)れ自ら算術を(ほこ)った。

(あるもの)は七分と云い、(あるもの)(すべ)て食すとし、

(あるもの)は昼に食して夕には不在(おこらな)いと云った。

(おかみ)は御史に(めい)じて、呉山に登り

10下に海門を視て、月の出るのを(みまも)らせた。

11年来(ながいあいだ)(こよみ)が失れても(あらた)める人が(いな)

12三家()説は、誰を優と為すべきだろう。

13(ふい)に鏡を()(よう)に光が炯炯(きらめ)き、

14(しだい)小児(こども)が餅を食べ初めた(よう)に(月が欠けていく)

15時は(まさ)に令を下して、銅を厳しく禁じているのに、

16破れた鏡が何為(どうし)て海の東から来たのだろう。

17天辺(そら)に餅が有っても不可食(たべられな)い、

18聞説(きくところ)では飢民が淮北に満ちているのに。

19是は鏡なのか是は餅なのか、(しばら)く論じるのは(やめ)う、

20須臾(すぐ)(わたし)に黄金の盆を(かえ)してくれたから。

21金盆(つき)は空に(うか)び、四山(やまやま)は静か、

22平波(なみ)(さかしま)(うつ)す、雲天(くも)の影。

23下は八表に連なり此の光を(とも)にし、

24上は銀河に接して一冷(つめたさ)を通じる。

25御史は家に帰り太史は眠り、

26人間(ちまた)には不聞(きこえな)くなった、鐘鼓の(おと)

27白石道人(わたし)釣船

28一瓢(ひょうたん)()たい()湖中(水面に浮かぶ月)を。

29(ハス)の葉が頭を()らす、君は睡りに()きたまえ、

30西風が急に送ってきそうだ、窓を敲つ句を。


慶元三年(1197)七月、四十三歳の作。 2陳玄:墨の別称。「陳」は古い、「玄」は黒い。古くなるほど佳いとされる。 5太史:天文官。 奏月蝕:『宋史』「天文志」に「慶元三年七月巳未、月食既」とある。 6三家:古代天文学の蓋天・宣夜・渾天の三学派。 9呉山:銭塘江の南にある。 10海門:河口。 14食餅:月蝕の時には餅を食べる習慣があったらしい。梅堯臣「月蝕」詩に「主婦煎餅去、小儿敲鏡声」とある。 15禁銅:当時、銅器を勝手に鋳造することは厳しく禁じられていた。『宋史』「寧宗紀」に「閏月甲戌、内出銅器付尚書省毀之、命申厳私鋳銅器之禁」とある。鏡は銅で造る。 18淮北:淮河以北の地区、いまの安徽省北部。 23八表:八方の外、きわめて遠い場所。 26鐘鼓伝:月蝕を伝える鐘や鼓の音。 30敲窓句:雨が窓を打つの意。

2022年12月25日日曜日

白石詩022送項平甫倅池陽

送項平甫倅池陽

1項君声名天宇窄、
2与君俱是荊湖客。
3向来相聞不相値、
4長安城中乃相識。
5論文要得文中天、
6邯鄲学歩終不然。
7如君筆墨与性合、
8妙処特過蘇李前。
9我如切切秋虫語、
10自詭平生用心苦。
11神凝或与元気接、
12屢挙似君君亦許。
13西湖一曲古牆陰、
14清坐論詩夜向深。
15見謂人間有公等、
16不知来者不如今。
17乾坤雖大知者少、
18君不見古人拙処今人巧。
19我徂山林口挂壁、
20如君合救狂瀾倒。
21石渠春水緑泱泱、
22閣下無人白日長。
23万里江湖入帰夢、
24子雲不願校書郎。
25九華山色梅根渡、
26半日風帆即秋浦。
27六条察吏安用許、
28幸有千巌作詩侶。
 

項平甫が池陽に倅としてゆくのを(みおく)

 

1項君の声名は天宇(てんか)をも(せま)くする、

2君()(いっしょ)(わたし)も荊湖からきた(たびびと)

向来(これまで)相聞()いていたが不相値(しりあえな)かった、

長安(みやこ)城中(まち)(こうし)相識(しりあ)えた。

5(私は)文を論じて、文中の天を要得(えよ)うとし、

6邯鄲で歩きかたを学んだが、(つい)不然(そうならな)かった。

7君の如きは、筆と墨が(とも)に性合し、

8妙処は特に蘇李の前を過ぎている。

(わたし)は切切とした秋の虫の(こえ)(よう)

10(みずか)()めて平生から心を用いて苦しんでいる。

11神凝(しゅうちゅう)すると(あるとき)は元気()接して、

12(しばし)(とりあ)げて君に(しめ)すと君も()(みと)めてくれた。

13西湖の一曲(すみ)、古びた(かきね)の陰、

14(しず)かに坐って詩を論じていると夜は(しだい)(ふけ)てきた。

15人間(せけん)では公等(あなたがた)()ると見謂(いわれ)るが、

16来者(あと)が今に不如(およばな)いかどうかは不知(わからな)い。

17乾坤(せかい)は大きいと(いえど)も知る者は少ない、

18君不見(ごらんなさ)い、古人の拙処(つたなさ)、今人の巧み。

19(わたし)は山林へ()き、口を壁に挂けましょう、

20君の如きは、(まさ)に狂瀾の倒れ(乱れた世の中)を救いたまえ。

21石渠の春の(かわ)は緑に泱泱(たゆた)い、

22(あなたが去れば)閣下(たてもの)無人(ひとけな)く、白日(ひる)は長い。

23万里の江湖を帰夢に()たことでしょう、

24子雲(あなた)は校書郎など不願(ねがわな)い。

25九華の山の色、梅根の(わたしば)

26半日、帆に風ふけば、即ち秋浦。

27六条察吏(うわやく)(どうし)て(名所巡りを)用許(ゆるしてくれ)るでしょう、

28幸いに千巌が()て、詩侶(とも)()ってくれるでしょう。


慶元元年(1195)、四十一歳の作。 0項平甫:項安世、字は平甫、江陵の人。慶元元年五月から五年八月まで通判池州だった(『南宋館閣続録』巻八「校書郎」に見える)。 倅:助け役、副官。宋代の通判は諸府州軍の副で、権限も大きかった。 池陽:安徽省池州市池陽郡。 3相値:「相遇」と同じ。 5文中天:文中の天機の意か。 6邯鄲学歩:他人の真似をしてうまくいかず、自分の本来の技能まで失ってしまうこと。『荘子』「秋水篇」にある故事で、戦国時代に趙の都邯鄲に行った燕国の人が、人々の歩く姿勢が美しいのを見て真似しようとしたがうまく出来ず、自分本来の歩き方まで忘れてしまい這って国に帰ったという。 7性合:本来の性質と合致している。 8蘇李:蘇武と李陵。ともに前漢の人、詩を贈答した。『文選』に、李陵から蘇武に送った詩三首と蘇武に答えた書、さらに蘇武の詩四首が収められており、南宋の厳羽『滄浪詩話』に「五言詩は李陵・蘇武に起こる」という。 11元気:大本の気。 12似:示す。 14向:なんなんとす。 19挂壁:使わずに置いておく喩え。 20狂瀾倒:逆巻く大波が倒れる、乱れた世の中の喩え。 21石渠:秘書省のこと。 23帰夢:帰郷の夢。 24子雲:前漢の揚雄の字。 校書郎:宮中の書物を扱う官。 25九華:九華山は安徽省にある山、九つの山が蓮の花に似ている、仏教の四大名山の一。 梅根:宣州にある地名。銅銭を鋳造するために夜も灯をともしていたらしい。孟浩然「夜泊宣城界」に「火識梅根冶、煙迷楊葉洲」とある。 26秋浦:宣州にある地名。李白に「秋浦」詩があり、「白髪三千丈、縁愁似箇長」という。 27六条察吏:漢代、刺史は郡太守などを六つの事柄で取り締まった。 28千巌:蕭徳藻のこと。蕭徳藻の息子が監酒として池陽に赴く際に同道しており、この時まだ池陽に滞在していたのではないか、という。

2022年12月17日土曜日

白石詩020送陳敬甫

送陳敬甫

1十年所聞溢吾耳、
2去年誦君書一紙。
3古人三語得奇士、
4況此磊落数百字。
5相逢千巌万壑裏、
6有客如君請兄事。
7才高自古人所忌、
8論高不售反驚世。
9好詩取客如券契、
10我無三者猶至是。
11如君之貧不可避、
12如君之貧不可避、
13呼舟径度寒潮外。

 

陳敬甫を送る

 

1十年、聞く(こと)(わたし)の耳に溢れ、

2去年、君の(てがみ)一紙を誦んじた。

3古人は三語で奇士を得た、

(まし)()磊落(おびただ)しい数百字。

5千巌万壑の(なか)相逢()い、

6君の(よう)()るなら兄のように(つか)えたいと()うた。

7才が高いと(むかし)から()人に(きら)れる()

8論が高いと不售(うれな)いで(かえ)って世を驚かせるだけ。

(すばら)い詩で客を取るのは券契(わりふ)(よう)難しい

10我には三者が無い、(それで)至是(このざま)

11君の(よう)()貧しさは不可避(さけられな)い、

12君の(よう)()貧しさは不可避(さけられな)い、

13舟を呼び(ただ)ちに寒潮の外に(わた)れ。


慶元三年(1197)、四十三歳の作か? 0陳敬甫:陳善、字は子兼(謙)、号は秋塘、潮渓、羅源(福建省)の人。高宗の紹興年間に太学生で、秦檜の和議に抵抗した。『捫虱新話』がある。 3三語得奇士:晋の王衍が阮咸の子の阮宣に老荘と儒教の違いを尋ねると、「将無同(根本は同じだが末節には違いがある)」の三字で答えた故事。『世説新語』「文学」に見える。 5千巌万壑:峰や谷の多い所、会稽を指す。『世説新語』「言語」に「顧長康従会稽 還、人問山川之美。顧云、千岩競秀、万壑争流、草木蒙籠其上、若雲興霞蔚」による。 10三者:「才高」「論高」「好詩」の三つ。自分は持ち合わせていないので、人に忌まれることも世を驚かせることもないが、それでも貧乏暮らしである。まして君のような人は、の意。

白石詩072武康丞宅同朴翁詠牽牛

武康丞宅同朴翁詠牽牛

1青花緑葉上疎籬、
2别有長条竹尾垂。
3老覚淡妝差有味、
4満身秋露立多時。 

武康丞の宅にて朴翁の牽牛を詠むに(しょうわ)する

 

1青い花、緑の葉、(まばら)(まがき)に上り、

に長いえだが有り、竹の尾から垂れている。

3老いて(おも)う、淡い(よそおい)()や味が有る、と、

4満身に秋露が多く立つ時。


慶元二年(1196)、四十二歳の作か? 0武康:湖州の県。武康丞は未詳。 朴翁:葛天民のこと。牽牛を詠んだ詩は未詳。 

2022年12月15日木曜日

白石詩032悼石湖三首③

悼石湖三首

其三

1未定情鍾痛、
2何堪更悼亡。
3遺書知伏枕、
4来弔只空堂。
5雪裏評詩句、
6梅辺按楽章。
7沈思酒杯落、
8天濶意茫茫。〈意一作正〉

 

情鍾(おさなご)の痛みも未定(さだまらな)いのに、

2更に悼亡(つま)とは(どうし)(たえ)られよう。

(てがみ)(おく)られて伏枕(やまい)を知り、

(とむらい)に来れば()だ空しき堂。

5雪の(なか)、詩句を評し、

6梅の(そば)で楽章を(つく)ったのに。

沈思(かんがえこ)んで酒杯は落ち、

8天は(ひろ)(おもい)茫茫(はてしな)い。


1情鍾:情の集まるところ。『世説新語』「傷逝」に「王戎喪児万子、山簡往省之。王悲不自勝。簡曰、孩抱中物、何至于此。王曰、聖人忘情、最下不及情、情之所鍾、正在我輩」とある。范成大は亡くなる前年に、次女を失っている。 2悼亡:范成大は亡くなる数カ月前に、妻の魏氏を失っている。 3伏枕:病床にある人。

白石詩032悼石湖三首②

其二

1未作龍蛇夢、
2驚聞露電身。
3百年無此老、
4千首属何人。
5安得公長健、
6那知事転新。
7酸風憂国涙、
8高塚臥麒麟。

 

龍蛇(ふきつ)な夢を未作(みていな)いのに

露電(はかな)い身となられたと聞いて驚く。

3百年に此のような(おかた)はほかに無く、

4千首はほかの何人(だれ)に属すだろう。

(あなた)長健(すこやか)安得(いてほしか)ったのに、

(どうし)(わか)るだろう、(なにごと)(きゅう)(かわ)るなんて。

(つん)と風がふく、国を憂いて涙する、

高い塚に麒麟が臥している


1龍蛇夢:龍は辰年、蛇は巳年。古代の迷信で、凶歳をいう。『後漢書』「鄭玄伝」に「五年春、夢孔子告之曰、起、起、今年歳在辰、来年歳在巳。既寤、知命当終」とあり、唐・李賢注に「北斉劉昼『高才不遇伝』論玄曰、辰為龍、巳為蛇、歳至龍蛇賢人嗟、玄以讖合之」という。 2露電:朝露は乾きやすく、稲妻は瞬く間に消える。迅速に失われてしまうものの喩え。『金剛般若波羅蜜経』に「一切有為法、如夢幻泡影、如露亦如電、応作如是観」とある。

白石詩032悼石湖三首①

悼石湖三首

其一

1身退詩仍健、
2官高病已侵。
3江山平日眼、
4花鳥暮年心。
5九転終無助、
6三高竟欲尋。
7尚留巾墊角、
8胡虜有知音。

 

石湖を悼む三首

 

其一

 

1身は退いたが詩は()(さか)ん、

2官は高いが病に已に侵された。

3江山に平日の(まなざし)

4花鳥に(ばん)(ねん)の心。

九転(くすり)(つい)(きき)め無く、

6三高を(つい)に尋ねよう()としている。

(なお)(ずきん)の角を(たら)さま(のこ)っているのは、

8胡虜にも知音が()るからだ。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0悼石湖:范成大はこの年九月に歿した。 5九転:九回煉った丹薬。もっとも貴とする。晋・葛洪『抱朴子』「金丹」に「九転之丹服之、三日得仙」という。 6三高:三人の高士。越の范蠡、晋の張翰、唐の陸亀蒙の三人。いずれも呉の人で、宋代に三人を三高として、呉江に三高祠を作った。范成大に「三高祠記」がある。 7巾墊角:頭巾の角をたらすスタイル。『後漢書』「郭太伝」に、郭太、字は林宗が出かけた先で雨に遭い、頭巾の角を垂らしていたら、人々が「林宗巾」と呼んで真似をした、という。  8胡虜有知音:范成大が金に使いした時、范成大の名声を慕う金人にかぶっていた頭巾を求められた。『宋史』「范成大伝」に見える。

2022年12月13日火曜日

白石詩081蕭山

蕭山

1帰心已逐晚雲軽、
2又見越中長短亭。
3十里水辺山下路、
4桃花無数麦青青。

1帰心は已にくれ雲をって軽い、

2又た越中の長短の(えき)を見る。

3十里水辺路、

4桃花無数青青。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0蕭山:紹興府蕭山県、県の西一里に蕭山がある。銭塘江を隔てて杭州の対岸の地。

白石詩075項里

項里

項里項王之里也在山陰西南二十余里地多楊梅苔梅皆妙天下王性之賦項里楊梅云只今枝頭万顆紅猶似咸陽三月火予近得苔梅一株古怪特甚為作七言

1旧国婆娑幾樹梅、
2将軍逐鹿未帰来。
3江東父老空相憶、
4枝上年年長緑苔。

項里

 

項里は項王()である()。山陰の西南二十余里に()る。(ここ)には楊梅・苔梅が多く、皆な天下に(すぐれ)ている。王性之が項里の楊梅を(うた)って云った、「只今(いま) 枝頭(こずえ)万顆(いくつも)(はな)(まる)で咸陽の三月の火の(よう)」と(わたし)(ちかご)ろ苔梅一株を得たが、古怪(ふるび)ていること特甚(はなはだ)しい。(そこ)で七言を作った。

 

(ふる)き国の婆娑(ゴツゴツ)した幾樹(すうほん)の梅、

2将軍は鹿を逐って未帰来(かえら)い。

3江東の父老(としより)は空しく相憶(おも)う、

枝上(こずえ)は年年、(とこしえ)に緑に苔むしている。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0項里:浙江省紹興の西南二十里にある。項羽が流寓した所という。 楊梅:ヤマモモ。陸游に「項里観楊梅」四首があり、其一に「山前五月楊梅市、渓上千年項羽祠」とある。 苔梅:枝や幹に苔がついている梅の樹。范成大「梅譜」に「古梅会稽最多」という。 王性之:王銍、字は性之、雪渓先生と呼ばれた。その『雪渓集』巻二「会稽楊梅雄天下其佳者皆出項里相伝項羽郷里也験図志信然戯作楊梅詩供作者一笑耳」に「請看枝頭万点火、猶是咸陽三月紅」とある。 咸陽三月火:『史記』「項羽本紀」に「項羽引兵西屠咸陽、殺秦降王子嬰、焼秦宮室、火三月不滅」とある。 1婆娑:舞うさま。また衰えたさま。梅の枝をいう。 2逐鹿:天下を狙うこと。『史記』「淮陰侯列伝」に「秦 失其鹿、天下共逐之」とあり、鹿は帝位の喩え。 3江東父老:項羽が漢軍に負けて南下した時、長江の烏江の亭長に「江東は小さな所ですが土地は千里あり、万の人が住んでいます、彼の地ではまた王になるには十分でしょう」と舟で渡ることを勧められたが、「天が我を滅ぼすのに何故渡れるだろうか。江東の子弟八千人を率いてここから西へ出発し、今一人として帰る者が居ない。たとえ江東の父兄が哀れんで私を王にしようとも、私に何の面目があろうか。たとえ彼らがそれを言わなくとも、どうして私一人が心に恥を感じずにいられようか」と断り、自刎した故事。『史記』「項羽本紀」に見える。

2022年12月12日月曜日

白石詩077越中士女春遊

越中士女春遊

1秦山越樹両依依、
2閑𠋣闌干看落暉。
3楊柳梢頭春又暗、
4玉簫声裏夜遊帰。 

越中の士女だんじょの春の遊び

1越の秦(望)山の樹は(ふた)つながら依依としている、

(しず)かに闌干に𠋣(もた)れて落暉(らくじつ)()る。

楊柳(やなぎ)梢頭(こずえ)に春は又た暗い、

4玉簫の声の(なか)、夜の遊びから帰った。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 1秦山:会稽郡の秦望山のこと。 3春又暗:春がまた巡ってきて緑が濃いさま。

2022年12月8日木曜日

白石詩036次朴翁遊蘭亭韻

次朴翁遊蘭亭韻

1亜字橋亭面面風、
2六人同坐樹陰中。
3松交帰路如留客、
4石礙流杯故悩公。
5山色最憐秦望緑、
6野花只作晋時紅。
7夕陽啼鳥人将散、
8俯仰興懐自昔同。
〈右軍祠堂有杜鵑花両株極照灼〉

 

朴翁の蘭亭に遊ぶに次韻する

 

1亜の字のような橋の(あずまや)面面(あたりいちめん)に風、

2六人が(いっしょ)に坐る、𣗳陰の中。

3松は帰路に(こうさ)して客を留める(よう)

4石は流れる杯を礙げて(わざ)(あなた)を悩ませる。

5山の色は秦望(山)の緑が最も(すばら)しく、

6野の花は()だ晋の時のよういに(あか)(さい)ている。

7夕陽に鳥が啼き、人々は(わかれ)よう()とする、

俯仰(つかのま)(おもい)(いだ)くのは(おの)ずと昔と同じだ。

〈右軍の祠堂に杜鵑花(つつじ)(ふた)株が有って(とて)照灼(かがや)いていた〉


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0朴翁:葛天民のこと。 蘭亭:浙江省紹興市の西南蘭渚山の上にある。東晋の王羲之がここで永和九年(353)、謝安らと曲水の宴を開き、「蘭亭集序」を作った。 1面面:各方面、どの方面も。范成大「詠呉中二灯 琉璃球」に「迭暈重重見、分光面面呈」とある。 5秦望:秦望山。浙江省杭州市の西南にある。秦の始皇帝が東巡した際に、この山上から南海を望んだ、という。李白「送友人尋越中山水」詩に「東海横秦望、西陵繞越台」、王琦注に「施宿会稽志、秦望山在会稽県東南四十里、経云衆嶺最高者」とある。 8俯仰興懐:王羲之「蘭亭集序」に「向之所欣、俛仰之間、以為陳迹、猶不能不以之興懐、況修短隨化、終期於尽、古人云死生亦大矣、豈不痛哉。……後之視今、亦由今之視昔、悲夫」とある。

2022年12月6日火曜日

白石詩028同朴翁登卧龍山

同朴翁登卧龍山

1龍尾回平野、
2簷牙出翠微。
3望山憐緑遠、
4坐樹覚春帰。
5草合平呉路、
6鷗忘霸越機。
7午涼松影乱、
8白羽対禅衣。

朴翁の「卧龍山に登る」に(しょうわ)する

 

1龍尾は平野を(めぐ)り、

簷牙(のきさき)翠微(みどり)から出ている。

3山を(みや)れば遠い緑を憐み、

(こかげ)に坐れば春の()るのを(かん)じる。

5草は呉を平らげた路に(かさな)り、

6鷗は霸をとなえた越の(はかりごと)を忘れた。

(ひる)は涼しく松の影は乱れ、

白羽(おうぎ)で禅衣(あなた)に(むか)いあう。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0朴翁:葛天民、字は無懐、越州山陰(浙江省紹興)の人。僧となり、字を朴翁といったが、後に還俗し、杭州西湖に居した。 臥龍山:紹興にある山。 6鷗忘霸越機:鷗は機心(たくらみ)があると寄ってこない、という。 8白羽:羽扇。鳥の羽で作った扇。戦いのとき、指揮者や軍師が持って全軍を指揮した。

白石詩090陪張平甫遊禹廟

陪張平甫遊禹廟

1鏡裏山林緑到天、
2春風只在禹祠前。
3一声何処提壺鳥、
4猛省紅塵二十年。

 

張平甫に()て禹廟に遊ぶ

 

1鏡裏の山林、緑は天に到り、

2春風は只だ禹祠の前に()る。

3一声、何処か、提壺の鳥、

(にわか)紅塵(ぞくせ)の二十年を(かえりみ)る。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0張平甫:張鑑のこと。 禹廟:会稽山(浙江省紹興市)の麓にある。 1鏡裏:鑑湖、南湖とも。紹興の南にある。 3提壺鳥:鵜鶘(がらん鳥、ハイイロペリカン)、発音が「提壺」と同じ。提壺蘆、提胡蘆ともいう。

白石詩057除夜自石湖帰苕渓⑩

除夜自石湖帰苕渓

其十

1環玦随波冷未銷、
2古苔留雪卧牆腰。
3誰家玉笛吹春怨、
4看見鵞黄上柳条。

 

(こおり)随ってたく未銷(きえな)い、

古苔(こけ)は雪を留めて牆の腰に卧す。

3誰の家の玉笛だろう、春の怨みを吹いている、

鵞黄(しんめ)が柳の(えだ)(めぶ)いているのが看見(みえ)る。


1環玦:玉環と玉玦。氷を指す。 4鵞黄:淡い黄色、鵞鳥の雛の毛のような色。柳の新芽を指す。