2023年3月6日月曜日

白石歌060永遇楽

永遇楽

次韻辛克清先生

1我与先生、夙期已久、人間無此。
2不学楊郎、南山種豆、十一徵微利。
3雲霄直上、諸公袞袞、乃作道辺李。
4五千言・老来受用、肯教造物児戯。

5東岡記得、同来胥宇、歳月幾何難計。
6柳老悲桓、松高対阮、未辦為鄰地。
7長干白下、青楼朱閣、往往夢中槐蟻。
8却不如・窪尊放満、老夫未酔。

 

辛克清先生に次韻する

 

1我()先生は、夙期(つと)に(知り合い)已に久しいこと、人間(このよ)(これ)よりほかは無い。

2楊郎が、南山に豆を種え、十に一の(わず)かな利を徵することは不学(まなばな)い。

雲霄(くも)(まっす)ぐに上り、諸公は袞袞(たくさん)(そこ)で(私たちは)道辺(みちばた)の苦い李と()った。

4五千言は老来()いて受用(やくにた)つ、造物の児戯にさせ()ることを(よし)としようか(しない)。

 

東岡(おか)記得(おもいだ)す、(いっしょ)に来て(やしき)()た、歳月は幾何(どれほど)か計り難い。

6柳は老いて桓(温)を悲しませ、松は高く阮(籍ら)に(むか)うが、(あなたの)鄰地(となり)()(すべがな)

長干白下(みやこ)の、青楼朱閣(おやしき)、往往にして夢の中の槐蟻(ありづか)

(むし)窪尊(さかずき)放満(みた)したほうが不如(まし)だが、老夫(おいぼれ)未酔(よえな)い。


制作年、未詳。 0辛克清:名は泌、漢陽の詩人。白石の詩001「以長歌意無極好為老夫聴為韻奉別沔鄂親友」其四、参照。 1夙期:早くから親交があった。 2楊郎:漢代の楊惲。司馬遷の外孫で、強直な性格で、誣告されて処刑された。『漢書』「楊敞伝」に見える。 「南山種豆」二句:楊惲が免職された後、彼に戒めの手紙を書いた友人がいたが、その返事として「報孫会宗書」で牢屋での不満を書き、「田彼南山、蕪穢不治、種一頃豆、落而為萁」「幸有余禄、方糴賤販貴、遂什一之利」などとある。 3諸公袞袞:宦官が多いこと。「袞袞」は多いさま。 道辺苦李:道ばたで誰にも採られない李はきっと苦い、という故事。『晋書』「王戎伝」に見える。 4五千言:『老子』を指す。『史記』「老子韓非伝」に「於是老子乃著書上下篇、言道徳之意五千余言而去」とある。 造物:万物を創造する天地宇宙。『荘子』に見える言葉。 5東岡:広く山の丘をいう。 胥宇:屋敷を観察する。『詩経』大雅「綿」に「爰及 姜女、聿来胥宇」とあり、毛伝に「胥、相。宇、居也」、孔穎達疏に「自来相土地之可居者」という。 6柳老悲桓:『世説新語』に見える桓温が柳を植えた故事。 松高対阮:竹林の七賢。杜甫「絶句四首」其一に「梅熟喜同朱老喫、松高擬対阮生論」とある。 7長干:金陵の地名。李白に「長干行」がある。 白下:南京の別称。唐代に金陵を白下と呼んだ。 夢中槐蟻:『南柯太守伝』の故事。夢で槐安国に行き、栄華を極めたが、目覚めてみると槐樹の下の蟻の穴だった話。 8窪尊:酒器。唐の李適之が峴山に登り、山頂の石が酒器に似ていたので、窪尊亭を建てた。

白石歌059驀山渓

驀山渓

詠柳

1青青官柳、飛過双双燕。
2楼上対春寒、捲珠簾瞥然一見。
3如今春去、香絮乱因風、霑径草、惹牆花、一一教誰管。

4陽関去也、方表人腸断。
5幾度払行軒、念衣冠尊前易散。
6翠眉織錦、紅葉浪題詩、烟渡口、水亭辺、長是心先乱。

 

柳を詠む

 

1青青した官柳、飛び過ぎる双双(つがい)の燕。

2楼上で春の寒さに(むか)い、珠簾(すだれ)を捲きあげて瞥然(さっ)一見()る。

如今(いま)や春は去り、香絮(やなぎのわた)が乱れて風の(せい)で、(こみち)の草に(うるお)(かきね)の花に()き、一つ一つ誰に(かかわ)()ようか。

 

4陽関を去っ()方表(そと)の人は腸断(かな)しい。

5幾度も行軒(たびのくるま)を払い、衣冠(ゆうじん)尊前(わかれのえん)(はな)れ易いことを(おも)う。

翠眉(あのひと)は錦を織り、紅葉は浪にうかべて詩を()いた(けぶ)渡口(わたしば)、水べの亭の(そば)、長是も心が先に乱れる。


制作年、未詳。 1官柳:官府に植えられた柳。官道や宮園の柳。 2瞥然:さっとかすめるように。 4陽関:王維「送元二使安西」に「勧君更尽一杯酒、西出陽関無故人」とある。 方表:四方の外。域外。 5行軒:旅の車。 衣冠:士大夫。 6翠眉:美しい女性。 「紅葉」句:宮女が葉に詩を書いて、宮廷の溝から外へ流した故事。

白石歌055小重山令

小重山令

趙郎中謁告迎侍太夫人、将来都下、予喜為作此曲。

1寒食飛紅満帝城、慈烏相対立、柳青青。
2玉階端笏細陳情、天恩許、春尽可還京。

3鵲報倚門人、安輿扶上了、更親擎。
4看花携楽緩行程。
5争迎処、堂下拜公卿。

 

趙郎中が謁告(いとまごい)して太夫人(ははうえ)迎侍(むか)えに、都下(みやこ)将来(こよ)うというので、(わたし)は喜んで(そのため)に此の曲を作った。

 

1寒食の飛ぶ(はなびら)は帝城を満たし、慈烏(からす)が青青した柳に相対立(むかいあ)う。

2玉階で笏を(もっ)(こま)かに情を()べ、天恩が許され、春の(おわり)(みやこ)可還(もど)る。

 

鵲報(よいしらせ)を門に(もた)れてまっていた人を、安輿(こし)(ささ)上了(のせ)るのに、更に(みずか)(てをひ)く。

4花を()て楽を携えて、(ゆっくり)行程(すす)む。

5争って迎える処、堂下で公卿を拜す。


制作年、未詳。 0趙郎中:未詳。 謁告:休暇を申請すること。 太夫人:官吏の母親をいう。 都下:都の臨安。 1寒食:清明節の時に、火を使うことを禁止する風習があった。  慈烏:カラスは母親に反哺する孝行な鳥と考えられていた。 2端笏:正しく笏を持つ。笏は、官員が皇帝に拝謁する際に手に持ち、君命を忘れないように記録した。 3鵲報:鵲が鳴くと吉報があると考えられていた。 倚門:妻や母が門で待つようす。 安輿:親を迎える時に用いる車。

白石歌040喜遷鶯慢

喜遷鶯慢

功父新第落成

1玉珂朱組、又占了道人、林下真趣。
2窓戸新成、青紅猶潤、双燕為君胥宇。
3秦淮貴人宅第、問誰記六朝歌舞。
4総付与・在柳橋花館、玲瓏深処。

5居士、閑記取。
6高臥未成、且種松千樹。
7覔句堂深、写経窓静。
8他日任聴風雨。
9列仙更教誰做、一院双成儔侶。
10世間住、且休将雞犬、雲中飛去。

 

功父の新しい(やしき)が落成した

 

玉珂(うま)朱組(おびだま)高官であって)()占了(しめ)ている、道人(どうし)林下(はやし)での真趣(おもむき)

窓戸(いえ)は新しく()き、青紅(ぬりいろ)()だ潤い、双燕(つばめ)が君の為に(やしき)()ている。

3秦淮(河)の貴人の宅第(やしき)、誰に問えば、六朝の歌舞を(おぼえ)ているだろう。

(すべ)付与(あた)えよう、(ここの)柳のならぶ橋と花さく館、玲瓏(キラキラ)と深い処()

 

居士(あなた)は、(しず)かに記取(おもいだ)す。

高臥()ようとしたが未成(ねむれな)いで、(しばら)く千樹の松を()えた。

7堂の(おく)で句を(もと)静かなべで写す

8他日は(おもうまま)に風雨を聴く。

9列仙は更に誰に做ら()ようか、一院(にわ)には(つがい)儔侶(なかま)(でき)ている。

10世間に住んで、(しばら)く雞や犬()、雲中に飛び去らせるのは()めよう。(ここが神仙世界のようにすばらしいのだから)


慶元六年(1200)、四十六歳の作。 0功父:張鎡、字は功父、約斎居士と号した。 新第落成:杭州北城南湖にあった。『斉東野語』に「園池声妓服玩之麗甲天下」とある。また『浙江通志』に「白洋池一名南湖。宋時張鎡功甫構園亭其上、号曰桂隠。後捨為広寿慧雲寺、俗呼張家寺」とある。 1玉珂:馬勒(おもがい)の飾り。多くが玉制。 朱組:佩玉や印章につける紐。高官の装飾。 2胥宇:邸宅を観察する。落成したばかりなので、つがいの燕もまだ巣を作っていない、の意。 3秦淮:南京の秦淮河。繁華な地で、貴顕な人が住んだ。 5居士:張鎡をいう。 6高臥:休むこと。隠居して出仕しないこと。『晋書』「陶潜伝」に「嘗言夏月虚閑、高臥北窓之下、清風颯至、自謂羲皇上人」とある。 松千樹:張鎡の桂隠北園に「蒼寒堂」があり、松二百株を植えていた。 7写経窓静:『武林旧事』に、桂隠園の中に「写経寮」がある、という。 9双成:董双成。古代の伝説の仙女。西王母に仕え、練炭を練り、それが出来ると鶴に乗って昇仙したという。『漢武帝内伝』に見える。ここは張鎡の妾をいう。 10「且休将雞犬」二句:淮南王が方術を学んで、王だけでなく家族や犬、鶏も昇仙した故事。王充『論衡』「道虚」に見える。

白石歌035側犯

側犯

詠芍藥

1恨春易去、甚春却向揚州住。
2微雨、正繭栗梢頭弄詩句。
3紅橋二十四、総是行雲処。
4無語、漸半脱宮衣笑相顧。

5金壺細葉、千朶囲歌舞。
6誰念我・髩成糸、来此共尊俎。
7後日西園、緑陰無数。
8寂寞劉郎、自修花譜。


芍藥を詠む
 

1春が去り易いことを恨む、(どうし)て春は(おもいがけ)ず揚州()住むのか。

(こま)かな雨が、(ちょう)ど繭や栗のような梢頭にふる、詩句を弄ぶ。

3紅橋二十四は、総是(すべ)て行雲の処。

無語(だま)って、(ようや)宮衣(ころも)を半ば脱いで、笑って相顧(ふりかえ)る。

 

5金の(はな)と細い葉、千朶(いくえ)にも歌舞(する人々)を囲む。

6誰が(おも)うだろう、(わたし)(びん)(しろ)く成り、(ここ)に来て尊俎(えんせき)を共にしていよう、とは。

7後日、西園は(芍薬が散って)、無数の緑陰(こかげ)になろう。

8寂寞しい劉(さん)(ひと)り花譜を()むことだろう。


嘉泰二年(1202)、四十八歳の作か。 0白石は揚州に孝宗淳熙三年(1176)と寧宗嘉泰二年(1202)の2回、行ったことがある。 1「甚春」句:なぜ春色は揚州に住んでいるのか、の意。呉曾『能改斎漫録』巻十五に孔武仲「芍薬譜」を引いて、「揚州芍薬、名於天下、非特以多為誇也。其敷腴盛大而繊麗功密、皆他州之所不及」とある。 2繭栗梢頭:芍薬のつぼみが小さく繭や栗のようだ。黄庭堅『山谷内集』巻七「往歳過広陵値早春嘗作詩……今春以前韻寄王定国」の前韻に「紅薬梢頭初繭栗、揚州風物鬢成糸」とある。 3二十四:揚州の名勝に二十四橋があった。黄庭堅の前詩に「淮南二十四橋月、馬上時時夢見之」とある。『揚州画舫録』巻十五には二十四橋は、別名を紅薬橋という、とある。 4宮衣:宮女の服。花びらの喩え。 5金壺:酒器。ここは大きな黄色い花をいう。 千朶囲歌舞:芍薬が満開になった時の賑わいをいう。『能改斎漫録』巻十五「芍薬譜」に「自三月初旬始開、浹旬而甚盛、遊観者相属於路、障幕相望、笙歌相聞」とある。 7西園:広く園林をいう。 8劉郎:『宋史』「芸文志」に、劉邠(字は貢父)の『芍薬譜』一巻が著録されている。後に散逸。劉邠は劉敞の弟で、かつて司馬光の『資治通鑑』編纂を手伝ったことがある。

白石歌032法曲献仙音

法曲献仙音〈俗名大石 黃鍾商〉

張彦功官舎在鉄冶嶺上、即昔之教坊使宅。高斎下瞰湖山、光景奇絶。予数過之、為賦此。

1虚閣籠寒、小簾通月、暮色偏憐高処。
2樹隔離宮、水平馳道、湖山尽入尊俎。
3奈楚客、淹留久、砧声帯愁去。

4屢回顧、過秋風未成帰計。
5誰念我・重見冷楓紅舞。
6喚起淡妝人、問逋仙今在何許。
7象筆鸞牋、甚而今・不道秀句。
8怕平生幽恨、化作沙辺烟雨。

 

張彦功の官舎が鉄冶嶺の上、即ち昔()教坊使の宅に在る。高斎(へや)の下には湖と山を瞰められ、光景が奇絶(すばら)しい。(わたし)(しばし)(ここ)(とおりす)ぎ、(そのため)(これ)()んだ。

 

(ひっそり)した(たてもの)に寒さが籠もり、小さな簾に月あかりが通る、暮色は(ひたす)ら高処に(うつく)しく。

2樹は離宮を隔て、水は馳道と平らかになり、湖も山も尽く尊俎(えんせき)に入る。

(どうし)て楚の(たびびと)は、久しく淹留(とどま)っているのだろう、砧の(おと)が愁いを帯びて去る。

 

(しばし)回顧(ふりかえ)る、秋風が過ぎても帰る(めど)未成(たたな)い。

5誰が(わたし)(おも)うだろう、(ふたた)び冷たく楓が(あか)く舞うさまを見ていよう、とは。

淡妝人(うめのはな)喚起(おもいだ)す、逋(さん)今、何許(どこ)()るのか(たず)ねたい。

(ぞうげ)の筆と鸞の(かみ)(どうし)而今(いま)秀句を不道(かけな)いのか。

(おそ)らく平生(いっしょう)幽恨(うらみ)は、沙辺(きしべ)の烟雨に化作()ってしまったのだろう。


制作年、未詳。 0張彦功:未詳。劉過『龍州集』に「賀新郎 贈張彦功」詞がある。 鉄冶嶺:杭州雲居山の下にある。『西湖志』に見える。 教坊使:官命。 2離宮:杭州清波門外の聚景園をいう。孝宗が晩年、ここに住んだ。 馳道:天子の車駕が通る道。 湖山尽入尊俎:宴会の間じゅう、湖や山の景色が目に入る、の意。 6淡妝人:梅の花の喩え。楊万里「梅花」に「月波成霧霧成霜、借与南枝作淡妝」とある。 逋仙:北宋の林逋のこと。 7象筆鸞牋:象牙で作った筆と、鸞鳥の模様のある便箋。精美な紙と筆をいう。

白石歌028念奴嬌②

念奴嬌

謝人惠竹榻

1楚山修竹、自娟娟・不受人間袢暑。
2我酔欲眠伊伴我、一枕涼生如許。
3象歯為材、花藤作面、終是無真趣。
4梅風吹溽、此君直恁清苦。

5須信下榻殷勤、翛然成夢、夢与秋相遇。
6翠袖佳人来共看、漠漠風烟千畝。
7蕉葉窓紗、荷花池館、別有留人処。
8此時帰去、為君聴尽秋雨。

 

(あるひと)が竹の(ベッド)を惠んでくれたことに謝す

 

1楚の山の修竹(たけ)は、(おのずか)娟娟(しなやか)で、人間(このよ)袢暑(あつさ)不受(うけな)い。

(わたし)は酔って眠りたい()(あれ)(わたし)(とも)をする、一枕(まくら)に涼しさが如許(どれほど)生じるだろう。

象歯(ぞうげ)を材と()て、花藤(ふじ)を面と()ても、終是(けっきょく)は真の(おもむき)は無い。

(つゆごろ)の風が(むしあつ)さを吹きはらい、此の(たけ)(ずっ)(このよう)清苦(すがすが)しい。

 

須信(きっ)(ベッド)殷勤(ねんごろ)(よこたわ)れば、翛然(おもうまま)()て、夢で秋()相遇(であ)うだろう。

6翠の袖の佳人が来て共に看る、漠漠(ひろびろ)と風ふき(もや)たなびく千畝を。

(ばしょう)の葉のしげる窓紗(まど)(ハス)の花さく池館(たてもの)(ことさら)に人を留める処が有る。

8此の時、帰去(かえ)って、(たけ)の為に秋の雨を聴き尽くそう。


制作年、未詳。 0竹榻:竹の小さなベッド。 1修竹:長い竹。 娟娟:しなやかなさま。 袢暑:溽暑、炎暑。 2我酔欲眠:李白「山中与幽人対酌」に「我酔欲眠卿且去、明朝有意抱琴来」とある。 4梅風:初夏の梅の実が黄色く熟す頃の風。 此君:竹のこと。『晋書』「王徽之伝」に王徽之が「嘗寄居空宅中、便令種竹。或問其故、徽之但嘯詠指竹曰、何可一日無此君邪」とある。 恁:このように。 清苦:貧を守り刻苦する。 5翛然:自由で洒脱なさま。『荘子』「大宗師」に「翛然而往、翛然而来而已矣」とあり、成玄英の疏に「翛然、無繋貌也」という。 6翠袖佳人:杜甫「佳人」に「天寒翠袖薄、日暮倚修竹」とある。 7窓紗:窓にはってある紗。楊万里「初夏睡起」其一に「梅子留酸軟歯牙、芭蕉分緑与窓紗」とある。 池館:池のそばの建物。

白石歌028念奴嬌①

念奴嬌

余客武陵、湖北憲治在焉。古城野水、喬木参天、余与二三友日蕩舟其間、薄荷花而飲、意象幽閑、不類人境。秋水且涸、荷葉出地尋丈、因列坐其下、上不見日、清風徐来、緑雲自動、間于疏処窺見遊人画船、亦一楽也。朅来呉興、数得相羊荷花中。又夜泛西湖、光景奇絶、故以此句写之。

1鬧紅一舸、記来時・嘗与鴛鴦為侶。
2三十六陂人未到、水佩風裳無数。
3翠葉吹涼、玉容消酒、更灑菰蒲雨。
4嫣然搖動、冷香飛上詩句。

5日暮、青蓋亭亭、情人不見、争忍凌波去。
6只恐舞衣寒易落、愁入西風南浦。
7高柳垂陰、老魚吹浪、留我花間住。
8田田多少、幾回沙際帰路。

 

(わたし)が武陵に(たび)したとき、湖北の憲治(けんさつ)(ここ)()った。古城(ふるいまち)野水(しぜん)、喬木は天を()き、(わたし)は二三の友と(とも)に日がな舟を其の間に(うか)べ、荷の花に薄而(せま)っては飲み、意象(ふんいき)幽閑(ゆうが)人境(ひとのよ)とは不類(おもえな)かった。秋の(かわ)且涸(かれよ)うとして、荷の葉が地を出ること尋丈(はっしゃく)(そこ)(なら)んで其の下に坐ると、上は日が(みえな)い、清風が(ゆっくり)と来て、緑雲(くも)自動(なが)れ、(まばら)な処の間于(あいだに)は遊ぶ人の画船(ふね)窺見(のぞ)かれて、()一楽(たのしみ)であっ()。呉興を朅来(いきき)し、荷花の中を数得(いくど)相羊(うろうろ)した。()た夜には西湖に(うか)び、光景は奇絶(すばら)しく、(このため)に此の句()(ここ)(しる)す。

 

鬧紅(あか)一舸(こぶね)(おもいだ)す、来た時、(かつ)て鴛鴦と(とも)(つれあい)()った。

三十六陂(きし)(ひとびと)未到(きていな)い、水を(おびたま)とし風を(スカート)とする、無数を。

翠葉()(かぜ)に吹かれ、玉容(はな)は酒から()め、更に(こも)(がま)()らす雨。

嫣然(あでやか)に搖れ動き、冷たい香りが飛んで詩句に上る。

 

5日が暮れ、青い(はすのは)亭亭(そそりた)ち、情人(あのひと)不見(みえな)い、(どうし)凌波(なみま)を去ることが(でき)ようか。

()だ恐れる、舞衣(はすのはな)が寒さで()り易く、愁いが西風(あきかぜ)のふく南浦に入ることを。

7高い柳が垂らす陰、()えた魚が浪を吹きあげ、(わたし)を花の間に留住(とどめ)る。

田田(はすのは)多少(どれほど)か、(いくど)沙際(きしべ)の帰り路を(めぐ)った。


淳熙十六年(1189)、三十五歳の作。
⇒『宋詞三百首』189念奴嬌(姜夔)

2023年3月5日日曜日

白石歌021訴衷情

訴衷情

端午宿合路

1石榴一樹浸渓紅、零落小橋東。
2五日凄涼心事、山雨打船篷。

3諳世味、楚人弓、莫忡忡。
4白頭行客、不採蘋花、孤負薰風。

 

端午合路に宿る

 

1石榴の一樹が渓を紅く()めるころ、小さな橋の東に零落する。

2五日の凄涼(わび)しい心事(こころ)、山の雨が船の(とま)を打つ。

 

3(私は)世味(せけん)(くら)い、楚人の弓を、忡忡(うれ)いてはいけない()

白頭(しらがあたま)行客(たびびと)蘋花(うきくさ)不採(とらな)い、薰風に孤負(そむ)いて。


制作年、未詳。 0合路:橋の名。江蘇呉県にある。 2五日凄涼:江に身を投げた屈原のために、ちまきを江へ投げ入れる風習がある。 3楚人弓:『孔子家語』「好生」に「楚王失弓、楚人得之、又何求之」とあり、後に失ったがまた手に入れた物をいう。多くは、ものを失っても達観している態度をいう。 忡忡:憂えるさま。『詩経』召南「草虫」に「未見君子、憂心忡忡」とある。 4蘋:水草の名。 薰風:おだやかな東南の風。

白石歌014少年遊

少年遊

戯平甫

1双螺未合、双蛾先斂、家在碧雲西。
2別母情懐、随郎滋味、桃葉渡江時。

3扁舟載了、匆匆帰去、今夜泊前渓。
4楊柳津頭、梨花牆外、心事両人知。

 

平甫に戯れる

 

(ふた)つの(まげ)未合(あわな)いうちに、(ふた)つの(まゆ)を先に(ひそ)める、家は碧雲の西に在る。

2母と別れた情懐(おもい)(あなた)に随う滋味(あじわい)、桃葉が江を渡る時。

 

扁舟(こぶね)載了()って、匆匆(そそくさ)帰去()った、今夜は前渓に泊まる。

楊柳(やなぎ)津頭(わたしば)、梨の花が(かきね)(むこう)に、心事(こころ)は両人が(わか)っている。


制作年、未詳。 0平甫:張鑑、字は平甫。 1双螺:少女の髷の形。 双蛾:女性の眉の形。 斂:皺。 碧雲西:佳人のいるところ。江淹「休上人怨別詩」に「日暮碧雲合、佳人殊未来」とある。 2桃葉:東晋の王献之の愛妾。金陵の秦淮河の渡し場で「桃葉歌」を作って贈ったという。『隋書』「五行志上」に見える。

白石歌013憶王孫

憶王孫

番陽彭氏小楼作

1冷紅葉葉下塘秋、長与行雲共一舟。零落江南不自由、両綢繆、料得吟鸞夜夜愁。

 

番陽彭氏小楼にて

 

冷紅(かえで)葉葉()(きし)()る秋、(いつ)も行雲()共に一舟(こぶね)。江南に零落(おちぶれ)不自由(ままならな)い、(ふた)つ(離れて)綢繆(れんめん)と、料得(きっ)()く鸞に夜夜(まいよ)愁う。


制作年、未詳。 0番陽:江西番陽、饒州の治所の所在地。 彭氏小楼:彭氏の家族の旧居。彭氏は宋代、番陽に代々住んで、彭大雅は嘉熙年間に北へ使者で行く命を受けた。 1冷紅:楓の葉をいう。 綢繆:連綿と続く気持ち。『詩経』唐風「綢繆」に「綢繆束薪、三星在天」とある。 鸞:伝説の霊鳥。

白石歌012虞美人②

虞美人

1摩挲紫蓋峰頭石、下瞰蒼厓立。
2玉盤揺動半厓花、花樹扶疏一半白雲遮。

3盈盈相望無由摘、惆悵帰来屐。
4而今仙迹杳難尋、那日青楼曾見似花人。

1紫蓋峰の頭の石を()(あお)(がけ)(そびえ)るのを瞰る。

玉盤(はな)揺動(ゆれうご)く、半厓(がけのなかば)の花、花樹(はな)扶疏(しげ)り、白雲を一半(なか)(さえぎ)る。

 

盈盈(なよなよ)として、相望(ながめ)るが摘む(すべ)は無く、惆悵(かな)しく帰って来る(くつ)

而今(いま)仙(人)の迹は(はる)か尋ね難い、那日(あのひ)の青楼で曾て花に似た人を見た。


制作年、未詳。 1摩挲:なでる。 紫蓋峰:長沙にある南嶽衡山七十二峰の一つ。 下瞰:俯瞰する。 2玉盤:牡丹の花の喩え。 扶疏:枝葉が茂るさま。陶淵明「読山海経」に「孟夏草木長、繞屋樹扶疏」とある。 3屐:山歩きに使う木製の靴。下駄のように歯がある。 4青楼:美女や妓女のいるところ。

白石歌012虞美人①

虞美人

賦牡丹

1西園曾為梅花酔、葉剪春雲細。
2玉笙涼夜隔簾吹、臥看花梢揺動一枝枝。

3娉娉嫋嫋教誰惜、空圧紗巾側。
4沈香亭北又青苔、唯有当時蝴蝶自飛来。

 

牡丹を()

 

1西園で曾て梅の花の為に酔い、葉は春の雲を剪ったように細かった。

2玉笙を涼夜に、簾を隔てて吹き、臥して花の梢を()た、一枝枝(どのえだ)揺動(ゆれ)ていた。

 

娉娉嫋嫋(なよなよ)と、誰を惜ま()るのだろう、(むな)しく紗の(カーテン)(そば)(おお)っている。

4沈香亭の北に()た青い苔、唯だ当時の蝴蝶が()(ひと)り飛んで来る。


制作年、未詳。 1西園:漢末に曹操が鄴都に建てた園林。曹操「公宴」に「清夜遊西園、飛蓋相追随」とある。ここは臨安の聚景園を指す。 3娉娉嫋嫋:軽やかで美しいさま。杜牧「贈別二首」其一に「娉娉裊裊十三余、豆蔲梢頭二月初」とある。 4沈香亭:唐の興慶宮の中にあった。玄宗がこの亭の前に牡丹を植えさせて楊貴妃と鑑賞し、李亀年に命じて金の紙箋を持ってこさせ、李白に新しく歌詞を作らせた。その時、李白が作ったのが「清平楽」三首で、其一に「名花傾国両相歓、長得君王帯笑看。解釈春風無限恨、沈香亭北倚闌干」という。

白石歌010好事近

好事近

賦茉莉

1涼夜摘花鈿、苒苒動揺雲緑。
2金絡一団香露、正紗厨人独。

3朝来碧縷放長穿、釵頭罣層玉。
4記得如今時候、正荔枝初熟。

 

茉莉を()

 

1涼しい夜に花鈿(はな)を摘む、苒苒(ゆらゆら)動揺(ゆれ)雲緑()

金絡(うま)一団(ひとかたまり)の香露、(ちょう)紗厨(うすいカーテン)のなか、(あのひと)は独り。

 

3朝が来て碧縷(みどりのいと)放長穿(くさり)にし釵頭(かんざし)層玉(はなぶさ)(かけ)

記得(おもいだ)す、如今(いま)時候(ころ)(ちょう)ど荔枝が(やっ)と熟す。


制作年、未詳。 0茉莉:夏から秋にかけて小さな白い花をつける。 1花鈿:女性の首飾り。ここは茉莉をいう。 苒苒:葉が柔らかいさま。 雲緑:黒い豊かな髪。茉莉の葉が茂っているさま。 2金絡:黄金の頭絡。馬の頭につける馬具で、ふつうは革製。 紗厨:紗のとばり。李清照「酔花陰」に「佳節又重陽、玉枕紗厨、半夜涼初透」とある。 3碧縷:みどりの糸。枝をいう。 層玉:玉のように重なる茉莉花。

2023年3月4日土曜日

白石歌057卜算子⑧

卜算子

1御苑接湖波、松下春風細。
2雲緑峩峩玉万枝、別有仙風味。

3長信昨来看、憶共東皇酔。
4此樹娑娑一惘然、苔蘚生春意。〈聚景官梅皆植之髙松之下花䕃嵗久萼尽緑夔旧歳観梅於彼所聞於園官者如此末章及之〉

 

1御苑は湖の波に接し、松の下の春風は(やわらか)い。

雲緑(くも)峩峩(たか)く玉のような万(えだ)(ことさら)に(神)仙の風味が有る。

 

3長信(殿)に昨(年)、来て看た、(おもいだ)す、東皇(はるのかみ)と共に酔ったことを。

4此の樹は娑娑(ひらひら)(ひたす)惘然(ぼんやり)として、苔蘚(こけ)に春の(けはい)が生じている。


開禧三年(1207)、五十三歳の作。 1御苑:衆景園。『武林旧事』巻四に「御園、衆景園、清波門外孝宗致養之地、堂匾皆孝宗御書。淳熙中、屡経臨幸。嘉泰間、寧宗奉成粛太后臨幸。其後並皆荒蕪不修。高疏寮詩曰、翠華不向苑中来、可是年年惜露台。水際春風寒漠漠、官梅却作野梅開」とある。 3長信:漢の宮殿の名。ここは御園を指し、寧宗が成粛皇太后謝氏を奉じてこの地に臨幸したことをいう。 東皇:春を司る神。春の光をいう。 4娑娑:舞うようす。 苔蘚:自注に「聚景官の梅は、皆な之を高松の下に植え、花䕃は歳が久しくなると、萼は尽く緑になる。夔は旧歳(きょねん)、彼(そこ)で梅を観て、園官に聞いた所、此の如くであった。末章に之に及ぶ」とある。

白石歌057卜算子⑦

卜算子

1象筆帯香題、龍笛吟春咽。
2楊柳嬌癡未覚愁、花管人離別。

3路出古昌源、石瘦冰霜潔。
4折得青鬚碧蘚花、持向人間説。〈越之昌源古梅妙天下〉

象筆(ふで)(すばら)しい()()きたいが、龍笛(ふえ)春の(なげき)を吟じる。

楊柳(やなぎ)嬌癡(たおや)かで愁いを未覚(しらな)い、花だけが人の離別(わかれ)(かか)わる。

 

3路は(いにしえ)の昌源を出て、石は痩せ冰と霜が(しろ)い。

青鬚碧蘚(あおごけ)の花を折得()って、持って人間(このよ)()(かた)ろう。


開禧三年(1207)、五十三歳の作。 1象筆:管を象牙で作った筆。筆が精美なさま。 龍笛:竹の笛。王維「新竹」に「楽府裁龍笛、漁家伐釣竿」とある。 3昌源:自注に「越の昌源は、古梅が天下に妙たり」とある。会稽県南に昌源坂がある。 4青鬚碧蘚花:青い苔のついた梅の花。范成大『梅譜』に会稽の古梅は「蒼蘚鱗皴、封満花身。又有苔鬚垂於枝間、或長数寸、風至緑糸飄飄可玩」とある。

白石歌057卜算子⑥

卜算子

1緑蕚更横枝、多少梅花様。
2惆悵西村一塢春、開過無人賞。

3細草藉金輿、歳歳長吟想。
4枝上么禽一両声、猶似宮娥唱。〈緑蕚横枝皆梅別種凡二十許名西村在孤山後梅皆阜陵時所種〉

 

1緑蕚と、更に横枝、多少(たくさん)の梅の花の(さま)

惆悵(さび)しい、西村(橋)の一塢(くぼち)の春、開過()いても(めで)る人は(いな)い。

 

3(当時は)細い草も金の輿に(しか)れ、歳歳(まいとし)想いを長吟(うた)った

4枝の上の么禽(ことり)(いち)()声、()宮娥(きゅうじょ)(うた)(よう)


開禧三年(1207)、五十三歳の作。 1緑蕚・横枝:梅の品種。自注に「緑蕚・横枝は皆な梅の別種で、凡そ二十許(ほど)の名」とある。 2西村:橋の名。西泠橋。自注に「西村は孤山の後ろに在り、梅は皆な阜陵の時に種(う)えた所」とある。「阜陵」は宋の孝宗が埋葬されたところ。 3金輿:孝宗の輿。この地は草までも恩沢を蒙っている、の意。 4么禽:小鳥。