昔遊詩
其八
1青草長沙境、
2洞庭渺相連。
3洞庭西北角、
4雲夢更無辺。
5後有白湖沌、
6渺莽里数千。
7豈惟大盜窟、
8神龍所盤旋。
9白湖辛巳歳、
10忽墮死蜿蜒。
11一鱗大如箕、
12一髥大如椽。
13白身青䰇鬛、
14両角上捎天。
15半体臥沙上、
16半体猶沈淵。
17里正聞之官、
18官使吏致虔。
19作斎為禳祓、
20観者足闐闐。
21斂席覆其体、
22数里聞腥羶。
23一夕雷雨過、
24此物忽已遷。
25遺跡陷成川、
26中可行大船。
27是年虜亮至、
28送死江之壖。
29或云祖龍讖、
30詭異非偶然。
31近日山陽人、
32采菱不知還。
33望見三龍浮、
34目若電火然。
35見龍多見尾、
36少見四体全。
37一龍已為異、
38三者亦罕伝。
39又因漁湖側、
40水中忽生烟。
41烟中一驢出、
42繞身歩蹁蹮。
43俄随霹靂去、
44欲語無由縁。
45我聞語此事、
46乗舟往観焉。
47径往枯葭浦、
48白鷺争相先。
49湖有劉備廟、
50実司浩渺権。
51徘徊無所見、
52帰櫂月明前。
其八
1青草(湖)の長沙の境、
2洞庭(湖)は渺に相連なる。
3洞庭(湖)の西北の角、
4雲夢(沢)は更に無辺く。
5後ろに白湖の沌が有り、
6渺莽ること数千里。
7豈て惟だ大盜の窟であろう、
8神龍が盤旋う所なのだ。
9白湖に辛巳の歳、
10忽と死んだ蜿蜒が墮ちてきた。
11一まいの鱗が箕の如に大きく、
12一ぽんの髥が椽の如に大きい。
13白い身に青い䰇鬛、
14両つの角が上むいて天を捎めている。
15半体は沙上に臥し、
16半体は猶だ淵に沈んでいる。
17里正が之を官に聞ると、
18官は吏に虔に致わせた。
19斎(食)を作って禳祓を為て、
20観る者は足だ闐闐かった。
21斂席で其の体を覆ったが、
22数里も腥羶く聞った。
23一夕、雷雨が過ぎ、
24此物が忽と已に遷った。
25遺跡は陷んで川と成り、
26中を大船が行くことができる。
27是の年、虜の亮が至て、
28江の壖で送死れた。
29或は云う、祖龍の讖であって、
30詭異は偶然ではない、と。
31近日、山陽の人が、
32菱を采りにいって還るのを不知た。
33望見ると三龍が浮び、
34目は電火が然える若だった。
35龍を見るときは尾を見ることが多く、
36四体全てを見ることは少ない。
37一龍だけでも已に異であるのに、
38三者とは亦た罕にしか伝わらない。
39又た湖の側で漁をしていたところ、
40水中から忽と烟が生じた。
41烟の中から一とう驢が出て、
42身に繞りついて蹁蹮と歩く。
43俄に霹靂に随って去り、
44語ろうとしたが由縁が無かった、という。
45我は此の事を語るのを聞いて、
46舟に乗って焉を観に往った。
47径に枯れた葭の浦を往くと、
48白鷺が相先へと争う。
49湖には劉備の廟が有り、
50実に浩渺の権を司っている。
51徘徊したが見るものは無く、
52帰る櫂は月明かりの前。
1青草:青草湖。巴陵県の南七十九里にある(『元和郡県志』巻二十八「巴陵県」)。 4雲夢:雲夢沢。洞庭湖一帯。 5白湖:姜夔「浣渓沙」序に「予女須家沔之山陽、左白湖、右雲夢、春水方生、浸数千里」とある。 6渺莽:水面にもやが果てしなく広がるさま。 8盤旋:舞うさま。 9辛巳歳:紹興三十一年(1161)。 10蜿蜒:龍や蛇がくねりながら這うさま。 13䰇鬛:魚や龍の背びれ。 17里正:郷官、里長。 20闐闐:多いさま。 21斂席:「斂」は死者を衣服でくるみ絞で縛ること。「席」はむしろ。 27是年虜亮至:「虜亮」は金の第四代皇帝、女真名は迪古乃(テクナイ)、漢名は亮のこと。第五代世宗即位後に廃位され、海陵郡王に落とされたことから海陵王と称される。若い頃から漢文化に親しみ、即位後は漢文化の奨励を行った。南宋討伐を企て、大軍を自ら率いて遠征し揚州を陥落させたが、長江では苦戦し、陣中の揚州亀山寺で部下の軍隊により殺害された。『宋史』「高宗紀九」に「(紹興三十一年十一月)乙未、金人陥泰州、是日、金人弑其主亮於揚州亀山寺、戊戌、金都督府遣人持檄詣鎮江軍中議和」とある。 28壖:あきち。 29祖龍:秦の始皇帝のこと。『史記』「秦始皇本紀」に「(三十六年)秋、使者従関東夜過華陰平舒道、有人持璧遮使者曰、為吾遺滈池君。因言曰、今年祖龍死。」裴駰集解引蘇林曰、祖、始也、龍、人君象。謂始皇也」とある。 讖:予言。 30詭異:怪奇、不思議。 42蹁蹮:よろめく。 50浩渺:水面が広々していること。