2023年3月6日月曜日

白石歌028念奴嬌①

念奴嬌

余客武陵、湖北憲治在焉。古城野水、喬木参天、余与二三友日蕩舟其間、薄荷花而飲、意象幽閑、不類人境。秋水且涸、荷葉出地尋丈、因列坐其下、上不見日、清風徐来、緑雲自動、間于疏処窺見遊人画船、亦一楽也。朅来呉興、数得相羊荷花中。又夜泛西湖、光景奇絶、故以此句写之。

1鬧紅一舸、記来時・嘗与鴛鴦為侶。
2三十六陂人未到、水佩風裳無数。
3翠葉吹涼、玉容消酒、更灑菰蒲雨。
4嫣然搖動、冷香飛上詩句。

5日暮、青蓋亭亭、情人不見、争忍凌波去。
6只恐舞衣寒易落、愁入西風南浦。
7高柳垂陰、老魚吹浪、留我花間住。
8田田多少、幾回沙際帰路。

 

余(わたし)が武陵に客(たび)したとき、湖北の憲治(けんさつ)が焉(ここ)に在(あ)った。古城(ふるいまち)と野水(しぜん)、喬木は天を参(つ)き、余(わたし)は二三の友と与(とも)に日がな舟を其の間に蕩(うか)べ、荷の花に薄而(せま)っては飲み、意象(ふんいき)は幽閑(ゆうが)、人境(ひとのよ)とは不類(おもえな)かった。秋の水(かわ)は且涸(かれよ)うとして、荷の葉が地を出ること尋丈(はっしゃく)、因(そこ)で列(なら)んで其の下に坐ると、上は日が不見(みえな)い、清風が徐(ゆっくり)と来て、緑雲(くも)が自動(なが)れ、疏(まばら)な処の間于(あいだに)は遊ぶ人の画船(ふね)が窺見(のぞ)かれて、亦(ま)た一楽(たのしみ)であった(也)。呉興を朅来(いきき)し、荷花の中を数得(いくど)も相羊(うろうろ)した。又(ま)た夜には西湖に泛(うか)び、光景は奇絶(すばら)しく、故(このため)に此の句で(以)之(ここ)に写(しる)す。

 

1鬧紅(あか)い一舸(こぶね)、記(おもいだ)す、来た時、嘗(かつ)て鴛鴦と与(とも)に侶(つれあい)と為(な)った。

2三十六陂(きし)に人(ひとびと)は未到(きていな)い、水を佩(おびたま)とし風を裳(スカート)とする、無数を。

3翠葉(は)は涼(かぜ)に吹かれ、玉容(はな)は酒から消(さ)め、更に菰(こも)や蒲(がま)を灑(ぬ)らす雨。

4嫣然(あでやか)に搖れ動き、冷たい香りが飛んで詩句に上る。

 

5日が暮れ、青い蓋(はすのは)が亭亭(そそりた)ち、情人(あのひと)は不見(みえな)い、争(どうし)て凌波(なみま)を去ることが忍(でき)ようか。

6只(た)だ恐れる、舞衣(はすのはな)が寒さで落(ち)り易く、愁いが西風(あきかぜ)のふく南浦に入ることを。

7高い柳が垂らす陰、老(こ)えた魚が浪を吹きあげ、我(わたし)を花の間に留住(とどめ)る。

8田田(はすのは)は多少(どれほど)か、幾(いくど)も沙際(きしべ)の帰り路を回(めぐ)った。


淳熙十六年(1189)、三十五歳の作。
⇒『宋詞三百首』189念奴嬌(姜夔)

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