2023年3月6日月曜日

白石歌032法曲献仙音

法曲献仙音〈俗名大石 黃鍾商〉

張彦功官舎在鉄冶嶺上、即昔之教坊使宅。高斎下瞰湖山、光景奇絶。予数過之、為賦此。

1虚閣籠寒、小簾通月、暮色偏憐高処。
2樹隔離宮、水平馳道、湖山尽入尊俎。
3奈楚客、淹留久、砧声帯愁去。

4屢回顧、過秋風未成帰計。
5誰念我・重見冷楓紅舞。
6喚起淡妝人、問逋仙今在何許。
7象筆鸞牋、甚而今・不道秀句。
8怕平生幽恨、化作沙辺烟雨。

 

張彦功の官舎が鉄冶嶺の上、即ち昔()教坊使の宅に在る。高斎(へや)の下には湖と山を瞰められ、光景が奇絶(すばら)しい。(わたし)(しばし)(ここ)(とおりす)ぎ、(そのため)(これ)()んだ。

 

(ひっそり)した(たてもの)に寒さが籠もり、小さな簾に月あかりが通る、暮色は(ひたす)ら高処に(うつく)しく。

2樹は離宮を隔て、水は馳道と平らかになり、湖も山も尽く尊俎(えんせき)に入る。

(どうし)て楚の(たびびと)は、久しく淹留(とどま)っているのだろう、砧の(おと)が愁いを帯びて去る。

 

(しばし)回顧(ふりかえ)る、秋風が過ぎても帰る(めど)未成(たたな)い。

5誰が(わたし)(おも)うだろう、(ふたた)び冷たく楓が(あか)く舞うさまを見ていよう、とは。

淡妝人(うめのはな)喚起(おもいだ)す、逋(さん)今、何許(どこ)()るのか(たず)ねたい。

(ぞうげ)の筆と鸞の(かみ)(どうし)而今(いま)秀句を不道(かけな)いのか。

(おそ)らく平生(いっしょう)幽恨(うらみ)は、沙辺(きしべ)の烟雨に化作()ってしまったのだろう。


制作年、未詳。 0張彦功:未詳。劉過『龍州集』に「賀新郎 贈張彦功」詞がある。 鉄冶嶺:杭州雲居山の下にある。『西湖志』に見える。 教坊使:官命。 2離宮:杭州清波門外の聚景園をいう。孝宗が晩年、ここに住んだ。 馳道:天子の車駕が通る道。 湖山尽入尊俎:宴会の間じゅう、湖や山の景色が目に入る、の意。 6淡妝人:梅の花の喩え。楊万里「梅花」に「月波成霧霧成霜、借与南枝作淡妝」とある。 逋仙:北宋の林逋のこと。 7象筆鸞牋:象牙で作った筆と、鸞鳥の模様のある便箋。精美な紙と筆をいう。

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