其九
1昔遊桃源山、
2先次白馬渡。〈桃源県界〉
3渡頭何清深、
4鴻鵠在高樹。
5白馬亦洞天、
6昔人有奇遇。
7洞門不可見、
8但聞水声怒。
9瞻彼羽人宅、
10乃乗方船渡。
11修廊夾五殿、
12重閣映千樹。
13規模象魏壮、
14回合緑陰護。
15山椒望五渓、
16壺頭入指顧。
17故宮在其北、
18屋瓦帯松霧。
19古杉晋時物、
20中空野人住。
21外囲四十尺、
22内可十客聚。
23我遊瞿仙館、
24壇上表遺歩。
25却下八畳坡、
26一亭衆妙具。
27両山抱澄潭、
28老木枝榦互。
29瞻前秀而迥、
30坐久凛難駐。
31桃源独不見、
32僻在宮南路。
33山行転深邃、
34狙猿紛上下。
35石竇出微涓、
36令我意猶豫。
37昔聞漁舟子、
38水際見洞戸。
39今看去渓遠、
40定自後人誤。
41惆悵却帰来、
42此遊不得屢。
43於今二十年、
44歴歴経行処。
其九
1昔、桃源の山に遊ぶと、
2先ず白馬の渡に次った。〈桃源県界〉
3渡頭は何とも清らかで深く、
4鴻鵠が高い樹に在た。
5白馬には亦た洞天があり、
6昔の人が奇遇に有った。
7洞門は見えない、
8但だ怒ったような水の声だけが聞こえる。
9彼の羽人の宅を瞻ようと、
10乃で方船に乗って渡った。
11修い廊が五殿を夾み、
12重もの閣が千樹に映えている。
13規模は象魏の壮さ、
14回合る緑陰が護る。
15山椒から五渓を望むと、
16壺頭(山)が指顧に入る。
17故宮は其の北に在り、
18屋瓦は松にかかる霧を帯びている。
19古杉は晋の時の物、
20中空に野人が住んでいる。
21外囲は四十尺、
22内に十にん客が聚ることができる。
23我は瞿仙の館に遊んだ、
24壇上には遺した歩が表った。
25却して八畳坡を下りると、
26一亭に衆妙が具っている。
27両つの山は澄んだ潭を抱き、
28老木は枝と榦が互っている。
29前を瞻ると秀れて而て迥だが、
30久く坐っていると凛くて駐り難い。
31桃源は独が不見い、
32僻って宮の南に路に在るからだ。
33山行は転す深邃く、
34狙猿が上に下に紛ている。
35石の竇から微な涓が出て、
36我の意を猶豫わさせる。
37昔から聞られている、漁舟子が、
38水際で洞の戸を見つけた、と。
39今看ると、渓から遠く去れていて、
40定自と後人が誤たのだろう。
41惆悵しいことに、却帰って来ると、
42此の遊びは、屢ば得ることはできない。
43於今や、二十年たち、
44経行った処は歴歴しているけれど。
1桃源山:湖南省長沙の西二百キロほどの常徳にある。『方輿勝覧』巻三十「常徳府」にその名が見え、注に「在桃源県南二十里、図経云、山下有桃川宮、西南一里即桃源洞、云是昔秦人避乱之地、有洞如門、巨石屏蔽、霊跡猶存、有水自中流出、涓涓不絶」とある。現在も湖を中心として庭園が整備され、観光スポットとなっている。 2白馬渡:桃源県の西三十里にある。嘉靖『常徳府志』巻五に見える。 5白馬亦洞天:『方輿勝覧』巻三十「常徳府」に「白馬洞」があり、注に「第三十五洞天」とある。 9羽人:飛仙。 13象魏:宮城の門。 15山椒:山頂。 五渓:『水経注』巻三十七「沅水」に「武陵有五渓、謂雄渓・樠渓・無渓・酉渓・辰渓其一焉」とある。 16壺頭:壺頭山。『水経注』巻三十七「沅水」に「夷山東接壺頭山、山高一百里、広円三百里」とある。また『後漢書』「馬援伝」の李賢注に「武陵記曰、此山頭与東海方壺山相似、神仙多所遊集、因名壺頭山也」という。 指顧:指さして見える範囲。 17故宮:桃川宮。 19古杉:桃川宮の空心杉。万暦『桃源県志』巻上「地文志・桃川内八景」に「空心杉」が見える。 20野人:隠者。 23瞿仙:瞿童のこと。嘉靖『常徳府志』巻二十「方外志・仙釈・桃源県」に略伝があり、「名栢庭、辰渓人、唐大暦間年十八、奉母避寇、入武陵云々」という。 24壇上表遺歩:唐・狄中立「桃源観山界記」に「八跡壇在祠堂北一百八歩、瞿童上処、足印八跡、後人思之、立壇於其所、因以為名、今奉勅醮祭、皆在斯壇」たとある。 25八畳坡:未詳。 26衆妙:多くのすぐれた自然の道理。天地万物の微妙な道理。『老子』に「玄之又玄、衆妙之門」とある。 37昔聞漁舟子:陶淵明「桃花源記」の故事。
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