2023年1月31日火曜日

白石詩015昔遊詩⑨

昔遊詩

其九

1昔遊桃源山、
2先次白馬渡。〈桃源県界〉
3渡頭何清深、
4鴻鵠在高樹。
5白馬亦洞天、
6昔人有奇遇。
7洞門不可見、
8但聞水声怒。
9瞻彼羽人宅、
10乃乗方船渡。
11修廊夾五殿、
12重閣映千樹。
13規模象魏壮、
14回合緑陰護。
15山椒望五渓、
16壺頭入指顧。
17故宮在其北、
18屋瓦帯松霧。
19古杉晋時物、
20中空野人住。
21外囲四十尺、
22内可十客聚。
23我遊瞿仙館、
24壇上表遺歩。
25却下八畳坡、
26一亭衆妙具。
27両山抱澄潭、
28老木枝榦互。
29瞻前秀而迥、
30坐久凛難駐。
31桃源独不見、
32僻在宮南路。
33山行転深邃、
34狙猿紛上下。
35石竇出微涓、
36令我意猶豫。
37昔聞漁舟子、
38水際見洞戸。
39今看去渓遠、
40定自後人誤。
41惆悵却帰来、
42此遊不得屢。
43於今二十年、
44歴歴経行処。

 

1昔、桃源の山に遊ぶと、

()ず白馬の(わたし)(とま)った。〈桃源県界〉

渡頭(わたしば)は何とも清らかで深く、

鴻鵠(くぐい)が高い樹に()た。

5白馬には()た洞天があり、

6昔の人が奇遇(ふしぎなこと)(であ)った。

7洞門は見えない(不可)

8但だ怒ったような水の(おと)だけが聞こえる。

()羽人(ひせん)(すまい)()ようと、

10(そこ)方船(はこぶね)に乗って渡った。

11(なが)(ろうか)が五殿を(はさ)み、

12(いくえ)もの(たてもの)が千樹に映えている。

13規模は象魏の(おおき)さ、

14回合(めぐ)緑陰(こかげ)が護る。

15山椒(てっぺん)から五渓を望むと、

16壺頭(山)が指顧(めのとどくところ)に入る。

17故宮は()の北に()り、

18(やね)(がわら)は松にかかる霧を帯びている。

19古杉は晋の時の物、

20中空に野人(いんじゃ)が住んでいる。

21(まわり)は四十尺、

22内に十にん客が聚ることができ()る。

23(わたし)は瞿仙の館に遊んだ、

24壇上には遺した(あしあと)()った。

25(ひきかえ)して八畳坡を下りると、

26一亭(あずまや)衆妙が(そなわ)っている。

27両つの山は澄んだ(ふち)を抱き、

28老木は枝と(みき)(まじわ)っている。

29前を()ると(すぐ)れて(そし)(はるか)だが

30(なが)く坐っていると(さむ)くて(とどま)り難い。

31桃源は(それだけ)不見(みえな)い、

32(おくま)って宮の南に路に在るからだ。

33山行(やまみち)(ますま)深邃(ふか)く、

34狙猿(てながざる)が上に下に(いりみだれ)ている。

35石の(あな)から(わずか)(みず)が出て、

36(わたし)(こころ)猶豫(ためら)させ()る。

37昔から(つたえ)られている、漁舟子(りょうし)が、

38水際で(どうくつ)(いりぐち)を見つけた、と。

39今看ると、渓から遠く(はな)れていて、

40定自(きっ)と後人が(まちがえ)たのだろう。

41惆悵(さび)しいことに、却帰(かえ)って来ると、

42()の遊びは、(しばし)得ることはできな()い。

43於今(いま)、二十年たち、

44経行()った処は歴歴(はっきり)しているけれど。


1桃源山:湖南省長沙の西二百キロほどの常徳にある。『方輿勝覧』巻三十「常徳府」にその名が見え、注に「在桃源県南二十里、図経云、山下有桃川宮、西南一里即桃源洞、云是昔秦人避乱之地、有洞如門、巨石屏蔽、霊跡猶存、有水自中流出、涓涓不絶」とある。現在も湖を中心として庭園が整備され、観光スポットとなっている。 2白馬渡:桃源県の西三十里にある。嘉靖『常徳府志』巻五に見える。 5白馬亦洞天:『方輿勝覧』巻三十「常徳府」に「白馬洞」があり、注に「第三十五洞天」とある。 9羽人:飛仙。 13象魏:宮城の門。 15山椒:山頂。 五渓:『水経注』巻三十七「沅水」に「武陵有五渓、謂雄渓・樠渓・無渓・酉渓・辰渓其一焉」とある。 16壺頭:壺頭山。『水経注』巻三十七「沅水」に「夷山東接壺頭山、山高一百里、広円三百里」とある。また『後漢書』「馬援伝」の李賢注に「武陵記曰、此山頭与東海方壺山相似、神仙多所遊集、因名壺頭山也」という。 指顧:指さして見える範囲。 17故宮:桃川宮。 19古杉:桃川宮の空心杉。万暦『桃源県志』巻上「地文志・桃川内八景」に「空心杉」が見える。 20野人:隠者。 23瞿仙:瞿童のこと。嘉靖『常徳府志』巻二十「方外志・仙釈・桃源県」に略伝があり、「名栢庭、辰渓人、唐大暦間年十八、奉母避寇、入武陵云々」という。 24壇上表遺歩:唐・狄中立「桃源観山界記」に「八跡壇在祠堂北一百八歩、瞿童上処、足印八跡、後人思之、立壇於其所、因以為名、今奉勅醮祭、皆在斯壇」たとある。 25八畳坡:未詳。 26衆妙:多くのすぐれた自然の道理。天地万物の微妙な道理。『老子』に「玄之又玄、衆妙之門」とある。 37昔聞漁舟子:陶淵明「桃花源記」の故事。

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