2023年1月30日月曜日

白石詩015昔遊詩⑧

昔遊詩

其八

1青草長沙境、
2洞庭渺相連。
3洞庭西北角、
4雲夢更無辺。
5後有白湖沌、
6渺莽里数千。
7豈惟大盜窟、
8神龍所盤旋。
9白湖辛巳歳、
10忽墮死蜿蜒。
11一鱗大如箕、
12一髥大如椽。
13白身青䰇鬛、
14両角上捎天。
15半体臥沙上、
16半体猶沈淵。
17里正聞之官、
18官使吏致虔。
19作斎為禳祓、
20観者足闐闐。
21斂席覆其体、
22数里聞腥羶。
23一夕雷雨過、
24此物忽已遷。
25遺跡陷成川、
26中可行大船。
27是年虜亮至、
28送死江之壖。
29或云祖龍讖、
30詭異非偶然。
31近日山陽人、
32采菱不知還。
33望見三龍浮、
34目若電火然。
35見龍多見尾、
36少見四体全。
37一龍已為異、
38三者亦罕伝。
39又因漁湖側、
40水中忽生烟。
41烟中一驢出、
42繞身歩蹁蹮。
43俄随霹靂去、
44欲語無由縁。
45我聞語此事、
46乗舟往観焉。
47径往枯葭浦、
48白鷺争相先。
49湖有劉備廟、
50実司浩渺権。
51徘徊無所見、
52帰櫂月明前。
 

其八

 

1青草(湖)の長沙の境、

2洞庭(湖)は(はるか)相連(つら)なる。

3洞庭(湖)の西北の角、

4雲夢(沢)は更に無辺(はてな)く。

5後ろに白湖の(みずたまり)が有り、

渺莽(ひろが)ること数千里。

(どうし)()大盜(おおどろぼう)(すみか)であろう、

8神龍が盤旋()う所なのだ。

9白湖に辛巳の歳、

10(ふっ)と死んだ蜿蜒(りゅう)が墮ちてきた。

11一まいの鱗が箕(よう)に大きく、

12一ぽんの(ほおひげ)(たるき)(よう)に大きい。

13白い(からだ)に青い(せびれ)

14(ふた)つの角が上むいて天を(かす)めている

15半体は沙上に臥し、

16半体は()だ淵に沈んでいる。

17里正(おさ)(これ)(やくしょ)(しらせ)ると、

18(やくしょ)(やくにん)(ていねい)(あつか)せた(使)

19斎(食)(おそなえ)を作って禳祓(おはらい)()て、

20観る者は(はなは)闐闐(おお)かった

21斂席(むしろ)()の体を覆ったが、

22数里も腥羶(なまぐさ)(にお)った。

23一夕(あるばん)、雷雨が(とおりす)ぎ、

24此物(なきがら)(ふっ)と已に(なくな)った。

25遺跡(あと)(くぼ)んで川と成り、

26中を大船が行くことができ()る。

27()の年、(えびす)の亮が()て、

28(ちょうこう)()(ほとり)送死(ころさ)れた。

29(あるひと)()う、祖龍の(よげん)であって、

30詭異(ふしぎなこと)は偶然ではない()、と。

31近日、山陽の人が、

32菱を()りにいって(かえ)るのを不知(わすれ)た。

33望見(ながめ)ると三龍が浮び、

34目は電火(いなづま)()える(よう)だった。

35龍を見るときは尾を見ることが多く、

36四体(からだ)全てを見ることは少ない。

37一龍だけでも已に異である()のに、

38三者とは()(まれ)にしか伝わらない。

39()た湖の(そば)で漁をしていたところ()

40水中から(ふっ)(けむり)が生じた。

41(けむり)の中から一とう(ロバ)が出て、

42身に(まとわ)りついて(よろよろ)と歩く。

43(にわか)霹靂(かみなり)に随って去り、

44ろう()としたが由縁(すべ)が無かった、という。

45(わたし)は此の(できごと)を語るのを聞いて、

46舟に乗って(これ)を観に往った。

47(まっすぐ)に枯れた(アシ)(いりえ)()くと、

48白鷺が相先(さき)へと争う。

49湖には劉備の廟が有り、

50(まこと)浩渺(みずうみ)の権を司っている。

51徘徊したが見るもの()は無く、

52帰る(ふね)は月明かりの前。


1青草:青草湖。巴陵県の南七十九里にある(『元和郡県志』巻二十八「巴陵県」)。 4雲夢:雲夢沢。洞庭湖一帯。 5白湖:姜夔「浣渓沙」序に「予女須家沔之山陽、左白湖、右雲夢、春水方生、浸数千里」とある。 6渺莽:水面にもやが果てしなく広がるさま。 8盤旋:舞うさま。 9辛巳歳:紹興三十一年(1161)。 10蜿蜒:龍や蛇がくねりながら這うさま。 13䰇鬛:魚や龍の背びれ。 17里正:郷官、里長。 20闐闐:多いさま。 21斂席:「斂」は死者を衣服でくるみ絞で縛ること。「席」はむしろ。 27是年虜亮至:「虜亮」は金の第四代皇帝、女真名は迪古乃(テクナイ)、漢名は亮のこと。第五代世宗即位後に廃位され、海陵郡王に落とされたことから海陵王と称される。若い頃から漢文化に親しみ、即位後は漢文化の奨励を行った。南宋討伐を企て、大軍を自ら率いて遠征し揚州を陥落させたが、長江では苦戦し、陣中の揚州亀山寺で部下の軍隊により殺害された。『宋史』「高宗紀九」に「(紹興三十一年十一月)乙未、金人陥泰州、是日、金人弑其主亮於揚州亀山寺、戊戌、金都督府遣人持檄詣鎮江軍中議和」とある。 28壖:あきち。 29祖龍:秦の始皇帝のこと。『史記』「秦始皇本紀」に「(三十六年)秋、使者従関東夜過華陰平舒道、有人持璧遮使者曰、為吾遺滈池君。因言曰、今年祖龍死。」裴駰集解引蘇林曰、祖、始也、龍、人君象。謂始皇也」とある。 讖:予言。 30詭異:怪奇、不思議。 42蹁蹮:よろめく。 50浩渺:水面が広々していること。

0 件のコメント:

コメントを投稿