2023年1月25日水曜日

白石詩015昔遊詩②

昔遊詩

其二

1放舟龍陽県、
2洞庭包五河。〈澧沅澬湘大江〉
3洶洶不得道、
4茫茫将奈何。
5篙師請小泊、
6石矴沈泥沙。
7是中大無岸、
8強指葦与莎。
9滞留三四晨、
10大浪山嵯峩。
11同舟総下涙、
12自謂餧黿鼉。
13白水日以長、
14僅存青草芽。
15転眄又已沒、
16但見千頃波。
17此時羡白鳥、
18飛入青山阿。 

 

其二

 

1舟を龍陽県に()した、

2洞庭は五河に包まれている。〈澧・沅・澬・湘・大江〉

3(波は)洶洶(ふつふつ)として不得道(ことばもな)く、

4(湖は)茫茫(ぼうぼう)として将奈何(どうしようもな)い。

篙師(せんどう)(しばら)く泊りたい()といい、

6石の(いかり)泥沙(どろすな)に沈めた。

是中(ここ)には(まった)く岸が無く、

(むり)(あし)()(はますげ)(めざ)

滞留(とどま)ること三、四(あさ)

10大浪(おおなみ)は山の嵯峩(けわし)きがごとく。

11同舟するものは()な涙を(なが)し、

12(みずか)()う、黿(スッポン)(ワニ)()われる、と。

13白水(みず)は日を()って()え、

14(わずか)に青草の芽が(のこ)った。

15転眄(またたくま)()(すで)に沒して、

16但だ千頃(ひろびろ)と波だけが見える。

17()の時は羡しかった、白鳥が、

18飛んで青山の(くま)に入ってゆくのが。


1龍陽県:今の湖南省漢寿県。 5篙師:熟練の船頭。杜甫「水会渡」詩に「篙師暗理楫、歌笑軽波瀾」とある。 10嵯峩:山のそびえるさま。 12餧:動物や人に食べ物を与えること。 黿鼉:スッポンやワニ。 15転眄:またたく間に。「転眼」に同じ。

白石詩015昔遊詩①

昔遊詩

夔蚤歳孤貧奔走川陸数年以来始獲寧処秋日無謂追述旧遊可喜可愕者吟為五字古句時欲展閲自省生平不足以為詩也

其一

1洞庭八百里、
2玉盤盛水銀。
3長虹忽照影、
4大哉五色輪。
5我舟度其中、
6晃晃驚我神。
7朝発黄陵祠、
8暮至赤沙曲。
9借問此何処、
10滄湾三十六。
11青蘆望不尽、
12明月耿如燭。
13湾湾無人家、
14只就蘆辺宿。
 

昔遊詩

 

(わたし)蚤歳(わか)くして孤貧(まず)しかったので、川陸(あちこち)を奔走して、ここ数年以来、(ようや)(やすらぐ)(ところ)()た。秋の日、無謂(することもな)く、(むかし)遊んで可喜(たのし)可愕(おどろ)いた(こと)追述(おもいだ)し、吟じて五字古句を(つく)った。(たま)(ひろ)げて()て自ら生平を省みたい()(これ)を詩と()るには不足(たりな)()

 

其一

 

洞庭の八百里

2玉盤に水銀を盛ったよう。

3長い虹が(ふっ)と影を照し、

4大きなことよ()、五色の輪。

(わたし)の舟は其の中を(わた)る、

晃晃(こうこう)として(わたし)(こころ)を驚かす。

7朝に黄陵の(ほこら)()ち、

8暮れに赤沙の(いりえ)()いた。

借問(おたずね)しますが、(ここ)何処(どこ)でしょう、

10滄湾三十六ですよ

11青蘆(あし)望不尽(みわたすかぎり)

12明月が(あかる)(ともしび)(よう)

13湾湾(どのいりえ)にも人家は無く、

14()だ蘆の(そば)に(舟を)()けて宿(とま)った。


嘉泰元年(1201)、四十七歳の作。 0蚤歳:早年。年少の頃。「蚤」は「早」に通じる。 孤貧:父親が早く亡くなって貧しかった。 1洞庭:洞庭湖。 6晃晃:明るいさま。 驚:はっとさせる。 7黄陵祠:黄陵廟。舜の二妃(娥皇と女英)の廟で、湖南省湘陰県の北にある。 8赤沙:洞庭湖の北西に赤沙湖がある。 10滄湾三十六:赤沙湖附近にある数々の入り江を指すと思われる。

2023年1月24日火曜日

白石詩038賀張肖翁参政

賀張肖翁参政

1太乙図書客屢談、
2已知上相出淮南。
3銀台日月非虚過、
4金鼎功名得細参。
5従此与人為雨露、
6応憐有客臥雲嵐。
7明朝起為蒼生賀、
8旋著藤冠紫竹簪。

 

張肖翁参政を(いわ)

 

1太乙の図書について客が(しばし)

2已に知っていました、上相(あなた)が淮南に(あらわれ)るのを。

3銀台での日月(ひび)を虚しく非過(すごさな)いで、

4金鼎の功名を細かく参(政)として得た。

(これ)から()()雨露と()り、

(きっ)と憐んでくれるでしょう、(わたし)()て雲嵐に臥していることも。

7明朝、起きて(あなたの)(ため)蒼生(たみくさ)(いわい)をして、

(そのあと)で藤の(ぼうし)、紫竹の(かんざし)()るでしょう。


嘉泰四年(1204)、五十歳の作。 0張肖翁参政:張巌。嘉泰三年正月に参知政事を免ぜられて知平江府に出るが、知揚州を経て、翌年十月に再び参知政治となった。 1太乙:宇宙万物の本原、本体。 2上相:宰相の尊称。 3銀台:銀台門。唐代、翰林院、学士院は銀台門の付近にあった。張巌は知平江府の時に資政殿学士、知揚州の時に資政殿大学士を帯びていた。 4金鼎功名:夏の時代に九鼎を鋳造し、国宝として伝えた。ここは宰相としての功績をいう。 7蒼生:庶民。

2023年1月23日月曜日

白石詩050東堂聯句

東堂聯句

1金風涼夜深、
2吹我蕭蕭髮。〈趙雍和仲〉
3起折丹桂枝、
4驚落花上月。〈白石〉

 

東堂聯句

 

金風(あきかぜ)、涼しい夜は()け、

(わたし)蕭蕭(まばら)な髮に吹く。〈趙雍和仲〉

3起きて丹桂の枝を折ろうとしたら、

4驚いて落ちてしまった、花の上の月。〈白石〉


開禧二年(1205)、五十二歳の作。 2趙雍和仲:趙廱(趙雍)、字は和仲、号は竹潭、忠簡(趙鼎、1085~1147、孝宗の時に忠簡と諡された)の子孫、開禧年間に処州太守(『宋詩記事』に見える)。 3丹桂:月に生えているという伝説がある。

白石詩068登烏石寺観張魏公劉安成岳武穆留題劉云侍児意真奉命題記

登烏石寺観張魏公劉安成岳武穆留題劉云侍児意真奉命題記

1諸老凋零極可哀、
2尚留名字圧崔嵬。
3劉郎可是疏文墨、
4幾点胭脂汙緑苔。

 

烏石寺に登り張魏公・劉安成・岳武穆の留題(かいたもの)を観た。劉が()っている、侍児の意真が命を奉って題記()きました、と。

 

1諸老が凋零(なくな)って(とて)可哀(かな)しいが、

()名字(なまえ)を留めて崔嵬(やま)を圧している。

3劉(さん)可是(けっし)文墨(ぶんしょう)(うと)くないが、

幾点(いくら)かの胭脂(べに)緑の苔を(よご)すことになった。


開禧二年(1206)、五十二歳の作。 0烏石寺:仏教の聖地で、浙江省龍游県北二十五キロにある。金衢盆地の北屏。 張魏公:張浚、『宋史』本伝に「進封魏国公」という。 劉安成:劉光世、『宋史』「孝宗紀」に「(乾道八年十二月)丙辰追封劉光世為安成郡王」とある。 岳武穆:岳飛、『宋史』本伝に「淳熙六年諡武穆」とある。 侍児意真:『清波雑志』巻十「客舎留題」に「劉武僖自柯山赴召、記歳月於仰高亭上、末云、侍児真意代書、後有人題曰、一入侯門海様深、漫留名字悩行人、夜来髣髴高唐夢、猶恐行人意未真」とある。 2崔嵬:石の高山。