2023年1月29日日曜日

白石詩015昔遊詩⑦

昔遊詩

其七

1揚舲下大江、
2日日風雨雪。
3留滞鼇背洲、
4十日不得発。
5岸氷一尺厚、
6刀剣触舟楫。
7岸雪一丈深、
8屹如玉城堞。
9同舟二三士、
10頗壮不恐懾。
11蒙氊閉篷臥、
12波裏任傾側。
13晨興視氊上、
14積雪何皎潔。
15欲上不得梯、
16欲留岸頻裂。
17扳授始得上、
18幸有人見椄。
19荒村両三家、
20寒苦衣食缺。
21買豬祭波神、
22入市路已絶。
23如今得安坐、
24閑対妻児説。

其七

 

(こぶね)大江を下る、

2くる日もくる日も、風と雨と雪と。

3鼇背洲に留滞(とどま)り、

4十日も()つことが不得(できな)かった。

5岸の氷は一尺の厚さ、

6刀剣が(ふね)(かじ)に触るよう。

7岸の雪は一丈の深さ、

(そびえ)ること(まる)(ぎょく)の城の(ひめがき)

9同舟する二、三の(おとこ)

10(すこぶ)(いさま)しく、不恐懾(おそれな)い。

11(もうせん)(かぶ)(とま)を閉じて(よこたわ)り、

12波の(なか)傾側(かたむ)くに任せている。

13(あさ)(おき)(もうせん)上を()ると、

14雪が積もって何と皎潔(しろ)かったことか。

15上がろう()にも(はしご)不得()く、

16留まろう()にも岸は(しき)りに(氷が)裂ける。

17扳授(よじのぼ)って始めて上ることができ()

18幸いにも人が()(むかえ)られた。

19荒村に()、三の家、

20寒さに苦しみ衣食を缺いている。

21(ブタ)を買って波神を祭ろうとしたが、

22市に入るも路は已に絶えていた。

23如今(いま)は安らかに坐ることができ()

24(しず)かに妻と()(むか)って(かた)っている。


1揚舲:「揚帆」に同じ。「舲」は窓のついた小さな船。やかた船。 3鼇背洲:范成大『呉船録』下に「九月丁酉朔泊江州、風作、終日不行、戊戌風小止、巳時発江州、……九十里至交石夾宿、己亥、発交夾宿、……又行食頃、通行八十里、泊鼇背洲、欲泊馬当、風甚不可前」とある。「鼇背」は大亀の背中。 11氊:毛氈。毛の敷物。 17扳授:他の物につかまりながら前へ進むさま。 21波神:水の神。

白石詩015昔遊詩⑥

昔遊詩

其六

1天寒白馬渡、〈漢川県界〉
2落日山陽村。
3是時無霜雪、
4万里風奔奔。
5外旃吹已透、
6内纊氷不温。
7吹馬馬欲倒、
8吹笠任飛翻。
9不見行路人、
10但見草木蕃。
11忽看野焼起、
12大焔焼乾坤。
13声如震雷震、
14勢若江湖吞。
15虎豹走散乱、
16麋鹿不足言。
17夜投野店宿、
18無壁亦無門。
19此行値三厄、
20幸得軀命存。
21明発見老姊、
22斗酒為招魂。

 

(そら)が寒い、白馬の(わたし)、〈漢川県界〉

落日(ゆうぐれ)の山の(みなみ)の村。

()の時、霜も雪も無く、

4万里を風が奔奔(ふきすさ)んでいた。

外旃(がいとう)は吹かれて(すで)(しみとお)り、

内纊(わたいれ)は氷で不温(つめた)い。

7馬に吹けば、馬は倒れそう()

8笠に吹けば、飛翻(ひるがえ)るが(まま)に。

行路(みちゆ)く人は不見(みえな)い、

10()だ草木の(しげ)るのだけが見える。

11(ふっ)と野焼が起こるのが()えた、

12大きな(ほのお)乾坤(てんち)を焼く。

13(おと)震雷(かみなり)の震える(よう)

14勢いは江湖を吞むが(ごと)く。

15虎や豹は(にげ)散乱(ちりぢり)に、

16(おおじか)や鹿は言うまでもな(不足)い。

17夜に野店(はたご)に投宿したが、

18壁は無く()た門も無い。

19()(たび)では三つの(わざわい)()ったが、

20幸いにも軀命(いのち)(のこ)すことができ()た。

21(あす)()(あね)()い、

22斗酒(さけ)でわたしの(ため)招魂(ねぎら)ってくれるだろう。


1白馬渡:原注にいう漢川県は、漢陽軍(湖北省武漢市)の県。 5外旃:毛織の外套。「旃」は毛織物。 6内纊:内側に着る綿入れ。 19三厄:大風に遭い、野火に遭い、あばら同然の宿に泊まったこと。 20軀命:生命。 21明発:朝に旅路につくこと。 22斗酒為招魂:旅の苦労をねぎらう。杜甫「彭衙行」に「故人有孫宰、高義薄曾雲。延客已曛黒、張灯啓重門。煖湯濯我足、剪紙招我魂」とある。

2023年1月28日土曜日

白石詩015昔遊詩⑤

昔遊詩

其五

1我乗五板船、
2将入沌河口。
3大江風浪起、
4夜黒不見手。
5同行子周子、
6渠胆大如斗。
7長竿挿蘆席、
8船作野馬走。
9不知何所詣、
10生死付之偶。
11忽聞入草声、
12灯火亦稍有。
13划船遂登岸、
14亟買野家酒。
 

其五

 

(わたし)五板船(おおぶね)に乗って、

(ちょう)ど沌河口に入ろうとした。

大江(かわ)に風と浪が起こり、

4夜のように(くら)く手も不見(みえな)い。

5同行した子周さん()

(かれ)(きも)は大きなこと(ます)(よう)

7長い竿に蘆の(むしろ)を挿すと、

8船は野の馬と()って走る。

何所(どこ)()くのか不知(わからな)い、

10生死は(これ)(ぐうぜん)(たく)す。

11(ふっ)と草に入る(おと)が聞こえ、

12灯火も()(すこ)し有る。

13船を划いで(そのま)ま岸に登ると、

14(すみやか)に野の家の酒を買った。


1五板船:大型の船。 2沌河口:沌河は湖北省にある川の名。沌口は湖北省にある地名。 5子周子:未詳。

白石詩015昔遊詩④

昔遊詩

其四

1蕭蕭湘陰県、
2寂寂黄陵祠。
3喬木䕃楼殿、
4画壁半傾敧。
5蘆洲雨中淡、
6漁網烟外帰。
7重華不可見、
8但見江鷗飛。
9假令無恨事、
10過此亦依依。

 

其四

 

蕭蕭(さび)しい湘陰県、

寂寂(さび)しい黄陵祠。

3喬木が楼殿(たてもの)(おお)

画壁(かべ)は半ば(かたむ)いている

5蘆の(なかす)は雨の中に淡く、

6漁の網は(もや)の外に帰ってゆく。

7重華は見ることが不可(できな)い、

()(かもめ)飛ぶのが見えるだけ。

假令(たと)え恨み事が無くても、

10(ここ)(とおりかか)ると()依依(なごりお)しい。


7重華:舜のこと。 9恨事:舜がこの辺りで二妃を亡くしたこと。

白石詩015昔遊詩③

昔遊詩

其三

1九山如馬首、
2一一奔洞庭。
3小舟過其下、
4幸哉波浪平。
5大風忽怒起、
6我舟如葉軽。
7或升千丈坡、
8或落千丈坑。
9回望九馬山、
10政与大浪争。
11如飛鵞車礟、
12乱打睢陽城。
13又如白獅子、
14山下跳鬇鬡。
15須臾入別浦、
16万死得一生。
17始知茵席湿、
18尽覆杯中羮。〈鬇鬡一作猙獰〉

 

 

1九つの山は馬の首の(よう)

2一つ一つ洞庭に(はし)っている。

3小舟は其の下を過ぎ、

4幸いだなあ()波浪(なみ)()いでいる。

5大風が(ふっ)怒起(わきおこ)り、

(わたし)の舟は葉の(よう)に軽い。

(あるとき)は千丈の(がけ)(のぼ)り、

(あるとき)は千丈の(あな)に落ちる。

(ふるかえ)って九馬山を望めば、

10(まさ)に大浪()争っている。

11(まる)で鵞車の(いしゆみ)飛ばし

12睢陽城を乱れ打つよう。

13()(まる)で白獅子が、

14山の(ふもと)鬇鬡(ふりみだ)れて(とびかか)るよう。

15須臾(すぐ)(ほか)(いりえ)に入り、

16万死に一生を得た。

17始めて(わか)った、茵席(しきもの)湿(ぬれ)

18杯の中の(あつもの)(ことごと)(ひっくりかえ)っている、と鬇鬡は一に猙獰に作る〉


1九山:洞庭湖の東岸にある九山觜山。 11鵞車:城を攻めるために用いる戦車。 礟:石弓。 12睢陽城:安禄山の反乱軍に抗った張巡らがたてこもった城。 14鬇鬡:毛髪の乱れるさま。