2023年2月26日日曜日

白石歌027一萼紅

一萼紅

丙午人日、余客長沙別駕之観政堂。堂下曲沼、沼西負古垣、有盧橘幽篁、一径深曲。穿径而南、官梅数十株、如椒如菽、或紅破白露、枝影扶疏。着屐蒼苔細石間、野興横生、亟命駕登定王台、乱湘流入麓山。湘雲低昂、湘波容与、興尽悲来、酔吟成調。

1古城陰、有官梅幾許、紅萼未宜簪。
2池面冰膠、牆腰雪老、雲意還又沈沈。
3翠藤共・閑穿径竹、漸笑語、驚起臥沙禽。
4野老林泉、故王台榭、呼喚登臨。

5南去北来何事、蕩湘雲楚水、目極傷心。
6朱戸黏鶏、金盤簇燕、空嘆時序侵尋。
7記曾共・西楼雅集、想垂柳・還裊万糸金。
8待得帰鞍到時、只怕春深。

 

丙午の人日、余(わたし)は長沙の別駕の(之)観政堂に客となった。堂の下は曲沼(ぬま)で、沼の西は古い垣(かきね)を負(せ)にし、盧橘(みかん)と幽篁(たけ)が有り、一径(みち)は深(おく)まで曲がっていく。径(みち)を穿(とお)って而(そのま)ま南へいくと、官梅が数十株、「如椒」や「如菽」、或いは「紅破白露」が、枝影も扶疏(まばら)にあった。屐(くつ)で蒼苔(こけ)や細石(こいし)の間を着(ふ)むと、野興が横生(あふれ)れ、亟(すぐ)に駕(くるま)に命じて定王台に登り、湘流(しょうすい)を乱(わた)って麓山に入った。湘(しょうすい)の雲は低く昂(たか)く、湘(しょうすい)の波は容与(ゆったり)として、興が尽き悲しく来(な)ったので、醉って吟じて調(しらべ)が成(で)きた。

 

1古城(ふるいまち)の陰、官梅は幾許(どれほど)有るのか、紅萼(はな)は簪には未宜(まだふさわしくな)い。

2池面(みずも)は冰が膠(は)り、牆腰(かきね)には雪が老(つも)り、雲の意(けはい)も還又(ま)た沈沈(どんより)。

3翠(みどり)の藤と共(おな)じ径竹(たけのこみち)を閑(しず)かに穿(とおりぬ)けると、漸(ようや)く笑語(わらいごえ)で、臥(ね)ていた沙(きし)の禽(とり)が驚起(おき)た。

4野老(むらびと)の林や泉は、故(むかし)の王の台榭(たてもの)、呼喚(よびあ)いながら登って臨(なが)めた。

 

5南北へ去来するのは何事(なぜ)、蕩々たる湘(しょうすい)の雲、楚の水(かわ)、目極(とおくみ)やれば傷心(かな)しい。

6朱戸(とびら)に黏(は)られた鶏、金盤(さら)に簇(あつ)められた燕、時序(とき)が侵尋(うしなわ)れるのを空しく嘆く。

7記(おもいだ)す、曾(かつ)て共に西楼で雅集(あつま)った、想う、垂柳(やなぎ)が還(やは)り万の糸金(えだ)を裊(ゆ)らしていた。

8鞍(うま)を帰して到(つ)く時を待得(ま)ってほしい、只(た)だ怕(おそら)く春は深(おわ)ろうとしているだろう。


淳熙十三年(1186)、三十二歳の作。

⇒『宋詞三百首』197一萼紅(姜夔)

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