2023年3月2日木曜日

白石歌064漢宮春①

漢宮春

次韻稼軒

1雲曰帰歟、縦垂天曳曳、終反衡廬。
2揚州十年一夢、俛仰差殊。
3秦碑越殿、悔旧遊・作計全疏。
4分付与・高懐老尹、管弦糸竹寧無。

5知公愛山入剡、若南尋李白、問訊何如。
6年年雁飛波上、愁亦関予。
7臨皋領客、向月辺・携酒携鱸。
8今但借・秋風一榻、公歌我亦能書。

 

稼軒に次韻する

 

1雲は「帰歟(かえろうか)」と曰い、(ほしいまま)に天に曳曳(ずるずる)と垂れて、(つい)衡廬(やま)(かえ)った。

2(私はといえば)揚州の十年の一夢(ゆめ)俛仰(つかのま)差殊(あやまち)

3秦の(石)碑や越の(宮)殿、(むかし)の遊びを悔い、作計(かんがえ)ることも全く(まれ)になりました。

高懐(けだか)老尹(あなたさま)分付与(さしあげ)には、管弦糸竹(おんがく)(むし)ろ無いほうがいいでしょう。

 

(あなた)が山を愛し剡(山)に入るのは、南を尋ねた李白の(よう)だと(わか)っています、何如(いかが)ですかと問訊(おたずね)します。

6年年、雁が波の上を飛ぶとき、愁いも()関予()くでしょう。

7そのときは(きし)に臨んで客を(ひきつ)れ、月の(そば)()携え鱸(魚)を携えてください。

8今は()だ秋風(亭)の一榻(つくえ)借んでください、(あなた)が歌えば(わたし)()た書を()きましょう。


嘉泰三年(1203)、四十九歳の作。 0稼軒:辛棄疾、字は稼軒。この年、朝請大夫・集英殿修撰を以て知紹興府となり、兼ねて浙江東路安撫使として6月11日に着任、年末に召されて行在へ赴任した。会稽に秋風亭を造り、「漢宮春 会稽秋風亭観雨」詞を作り、当時多くの人が奉和した。 1帰歟:隠棲のために帰ろう、の意。『論語』「公冶長」に「子在陳曰、帰歟、帰歟」とある。 垂天曳曳:大鵬が飛翔する勢い。『荘子』「逍遥遊」に大鵬が高く飛んで「翼若垂天之雲」とある。「曳曳」は長く引くさま。 衡廬:衡山と廬山。ここは隠棲の地をいう。「衡宇」と解して、質素な住宅とする説もある。陶淵明「帰去来辞」に「乃瞻衡宇、載欣載奔」とある。 2揚州十年一夢:杜牧「遣懐」に「十年一覚揚州夢」とある。 俛仰:みじかい時間。 差殊:まちがえる。 3秦碑:会稽の秦望山の石碑。秦の始皇帝がこの山に登った時に、李斯に命じて石に刻した。 越殿:臨安の遺跡。春秋時代の越国の宮殿を含む。 4老尹:辛棄疾を指す。「尹」は古代の官名。 5「知公」三句:辛棄疾が剡山に遊ぶさまが李白と同じであることをいう。李白はかつて剡山に遊び、「秋下荊門」詩で「此行不為鱸魚膾、自愛名山入剡中」と詠んだ。 8我亦能書:白石には書に関する専著がある。

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