2023年3月1日水曜日

白石歌006驀山渓

驀山渓

題銭氏渓月

1与鷗為客、緑野留吟屐。
2両行柳垂陰、是当日・仙翁手植。
3一亭寂寞、烟外帯愁横。
4荷苒苒、展涼雲・横臥虹尺。

5才因老尽、秀句君休覔。
6万緑正迷人、更愁入・山陽夜笛。
7百年心事、惟有玉闌知。
8吟未了、放船回、月下空相憶。

 

銭氏の渓月に()いた

 

1鷗()客と為り、緑野(ここ)吟屐(あし)を留めた。

両行(にれつ)に柳が陰を垂らしている、(これ)当日(あのころ)仙翁(あのかた)が手づから植えたもの。

一亭(あずまや)寂寞(さび)しげに、(もや)(むこう)に愁いを帯びて(なら)ぶ。

(ハス)苒苒(わさわさ)と、涼しい雲が(ひろが)り、虹尺(はし)横臥(たなび)く。

 

5才は老いに()って尽きた、秀句を君よ、(もとめ)るのは(やめ)てほしい。

6万緑は正に人を迷わせる、更に愁いて山陽の夜笛を()けば。

7百年の心事(あれこれ)()玉闌(てすり)だけが知って()る。

8吟じ未了(おわ)って、船を放回(もど)す、月の下、(むな)しく相憶(おもいだ)しながら。


嘉泰三年(1203)、四十九歳の作。 0銭氏渓月:銭良臣の園林。銭良臣、字は友魏、紹興二十四年(1154)の進士。華亭(いまの上海市松江区)に邸宅と庭園があった。十五年前に范成大に引き合わされて、銭良臣と交流があった。 1緑野:唐の裴度の別荘の名。ここは銭氏渓月を指す。 吟屐:詩を吟じる人の歩く音。「屐」は木製の下駄だが、ここは広く靴をいう。 4苒苒:草木が茂るさま。 虹:橋の美称。 5才因老尽:南朝の江淹が晩年に文才が尽きたとして、人々が「江郎才尽」と言った故事。 6山陽夜笛:魏晋の時、向秀が山陽の旧居で隣人の笛の音を聞き、亡友の嵇康・呂安を思い出して「思旧譜」を作った故事。 7玉闌:亭の欄干。ここにもたれた人々の愁いを、手すりだけが知っている、の意。

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