2023年3月1日水曜日

白石歌030月下笛

月下笛

1与客携壺、梅花過了、夜来風雨。
2幽禽自語、啄香心、度牆去。
3春衣都是柔荑剪、尚沾惹・残茸半縷。
4悵玉鈿似掃、朱門深閉、再見無路。

5凝竚、曾遊処。
6但繫馬垂楊、認郎鸚鵡。
7揚州夢覚、彩雲飛過何許。
8多情須倩梁間燕、問吟袖・弓腰在否。
9怎知道・悞了人、年少自恁虚度。

 

1客(とも)と(与)壺(さけ)を携(も)ってでかけると、梅の花は過了(ちってしま)っていた、夜来の風雨で。

2幽禽(とり)は自(ひと)り語(さえず)り、香(はなの)心(しん)を啄み、牆を度(わた)って去(ゆ)く。

3春の衣は都是(すべて)が柔荑(しろいて)で剪(た)ったもの、尚(ま)だ沾惹(つ)いている、残茸(いとぐち)の半縷(いと)。

4悵(さび)しい、玉鈿(うめ)は掃かれた似(よう)、朱門(もん)は深く閉ざされ、再び見(あ)いたくても路は無い。

 

5凝(じっ)と竚(たたず)む、曾て遊んだ処。

6但(た)だ馬を繫いだ垂楊(やなぎ)と、郎(わたし)を認めてくれる鸚鵡だけ。

7揚州の夢は覚め、彩雲(あのひと)が飛過(さ)って何許(どこ)にいるのだろう。

8多情(わたし)は須(きっ)と梁の間の燕に倩(たの)んで、吟袖(しじん)の弓腰(まいひめ)は(健)在か否(どう)か問(たず)ねてもらおう。

9(あのころ)怎(どうし)て知道(わか)っただろう、人を悞了(あやまらせ)て、年少(わかいころ)を自ら恁(このよう)に虚(むな)しく度(すご)すことになろう、とは。


慶元三年(1197)、四十三歳の作。 2幽禽:幽谷の鳥。 3柔荑:白く柔らかい茅の芽。美人の手の喩え。『詩経』衛風「碩人」に「手如柔荑、膚如凝脂」とある。 残茸:刺繍した針の糸口。 4玉鈿:女性の首飾り。ここは散った梅の花の喩え。 6鸚鵡:人の言葉をよく真似るので、人を覚えているだろう、の意。劉禹錫「詠鸚鵡」に「頻学喚人縁性慧、偏能識主為情通」とある。 7揚州夢覚:若いころの奔放な色恋。杜牧「遣懐」に「十年一覚揚州夢、贏得青楼薄幸名」とある。 彩雲:美しい事物や薄命な佳人の象徴。李白「宮中行楽詞」に「只愁歌舞散、化作彩雲飛」とある。 8吟袖:詩人の袖。ここは作者をいう。 弓腰:女性の弓のような腰つき。舞の上手な美女。唐・段成式『酉陽雑俎』前集に、士人が酔って寝てしまい、目が覚めてみると女性が「舞袖弓腰渾忘却、蛾眉空帯九秋霜」と歌っていた、とある。 9恁:このように。

0 件のコメント:

コメントを投稿