甲寅春、予与兪商卿燕遊西湖、観梅於孤山之西村、玉雪照映、吹香薄人。已而商卿帰呉興、予独来、則山横春烟、新柳被水、遊人容与飛花中、悵然有懐、作此寄之。商卿善歌声、稍以儒雅縁飾。予毎自度曲、吟洞簫、商卿輙歌而和之、極有山林縹緲之思。今予離憂、商卿一行作吏、殆無復此楽矣。
1為春瘦、何堪更・繞西湖尽是垂柳、自看烟外岫、記得与君、湖上携手。
2君帰未久、早乱落・香紅千畝。
3一葉凌波縹緲、過三十六離宮、遣遊人回首。
4猶有、画船障袖、青楼倚扇、相映人争秀。
5翠翹光欲溜、愛著宮黄、而今時候。
6傷春似旧、蕩一点、春心如酒。
7写入呉糸自奏、問誰識・曲中心、花前友。
甲寅の春、予は兪商卿と西湖で燕み遊び、梅を孤山の西村で観たが、玉と雪が照り映え、香りが吹かれて人に薄った。已而く商卿は呉興に帰り、予が独りで来ると、則は山に春烟が横き、新しい柳が水に被り、遊人が飛花の中を容与として、悵然しく懐いが有き、此を作って之に寄った。商卿は歌声が善しく、稍ど儒雅(な風格)を縁飾っている。予は毎も曲を自度ると、洞簫で吟じ、商卿は輙ち歌って之に和し、極めて山林に縹緲るという思いが有る。今、予は離れて憂う、商卿は一行って吏と作り、殆ど無復た此の楽しみは無いのだ。
1春の為に瘦せた、何て堪えられよう、更に西湖を繞れば尽く是れ垂柳、自ら烟の外の岫を看れば、記得す、君と、湖上で手を携った。
2君が帰って未久く、早くも乱れ落る、香紅は千畝に。
3一葉で縹緲く波を凌え、三十六離宮を過ぎると、遊人を回首らせる。
4猶だ有る、画船で袖で(顔を)障し、青楼で扇に倚れ、秀を争う人が相映う。
5翠翹は光が溜れそう、宮黄を著たがる、而今の時候。
6春を傷むのは旧の似、一点を蕩る、春の心は酒の如。
7呉糸に写入せて自ら奏でる、問う、誰が識っていよう、曲中の心、花前の友を。
紹熙五年(1194)、四十歳の作。 0兪商卿:兪灝、字は商卿、号は青松居士、『青松居士集』がある。代々杭州に暮らした。白石が湖州・杭州にいた頃に交流があった。 燕遊:宴飲すること。 孤山之西村:孤山の後ろにある西冷橋。 玉雪照映:白い梅の花と白い雪が、互いに照り映えるさま。 薄人:人に迫る。 縹緲:山中に隠棲するさま。 商卿一行作吏:『咸淳臨安志』に「兪灝紹熙四年登第」とある。「一行作吏」は出仕して官となること。嵆康「与山巨源絶好書」に「一行作吏、此事便廃」とある。 2香紅:赤梅をいう。 3三十六離宮:南宋臨安の多くの宮殿をいう。駱賓王「帝京篇」に「秦塞重関一百二、漢家離宮三十六」とある。 4画船障袖:美しく飾った船の上で、遊女が袖で顔をかくしている。周邦彦「瑞龍吟」詞に「障風映袖、盈盈笑語」とある。 青楼倚扇:「青楼」は妓女の住むところ。扇を手に立っている、の意。 5翠翹:美人の首飾りをいう。白居易「長恨歌」に「翠翹金雀玉掻頭」とある。 宮黄:宮女の化粧で、黄色い粉を額に塗る。「額黄」ともいう。 7呉糸:琴の弦。李賀「李憑箜篌引」に「呉糸蜀桐張高秋、空山凝雲頽不流」とあり、王琦 の注に「糸之精好者、出自呉地、故曰呉糸」という。
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