2023年2月27日月曜日

白石歌049角招

角招〈黃鍾角〉

甲寅春、予与兪商卿燕遊西湖、観梅於孤山之西村、玉雪照映、吹香薄人。已而商卿帰呉興、予独来、則山横春烟、新柳被水、遊人容与飛花中、悵然有懐、作此寄之。商卿善歌声、稍以儒雅縁飾。予毎自度曲、吟洞簫、商卿輙歌而和之、極有山林縹緲之思。今予離憂、商卿一行作吏、殆無復此楽矣。

1為春瘦、何堪更・繞西湖尽是垂柳、自看烟外岫、記得与君、湖上携手。
2君帰未久、早乱落・香紅千畝。
3一葉凌波縹緲、過三十六離宮、遣遊人回首。

4猶有、画船障袖、青楼倚扇、相映人争秀。
5翠翹光欲溜、愛著宮黄、而今時候。
6傷春似旧、蕩一点、春心如酒。
7写入呉糸自奏、問誰識・曲中心、花前友。

 

甲寅の春、予(わたし)は兪商卿と(与)西湖で燕(の)み遊び、梅を孤山の(之)西村で(於)観たが、玉(うめ)と雪が照り映え、香りが吹かれて人に薄(せま)った。已而(ほどな)く商卿は呉興に帰り、予(わたし)が独りで来ると、則(そのとき)は山に春烟(はるがすみ)が横(たなび)き、新しい柳が水に被(かぶさ)り、遊人(ものみきゃく)が飛花(やなぎのわた)の中を容与(ゆったり)として、悵然(さび)しく懐いが有(わ)き、此(これ)を作って之(かれ)に寄(おく)った。商卿は歌声が善(すばら)しく、稍(ほとん)ど儒雅(な風格)を(以)縁飾(まと)っている。予(わたし)は毎(いつ)も曲を自度(つく)ると、洞簫で吟じ、商卿は輙(すなわ)ち歌って(而)之(これ)に和し、極めて山林に縹緲(かくれ)るという(之)思いが有る。今、予(わたし)は離れて憂う、商卿は一行(さ)って吏と作(な)り、殆ど無復た此の楽しみは無いのだ(矣)。

 

1春の為に瘦せた、何(どうし)て堪えられよう、更に西湖を繞れば尽く是れ垂柳(やなぎ)、自ら烟(もや)の外(むこう)の岫(みね)を看れば、記得(おもいだ)す、君と(与)、湖上で手を携(とりあ)った。

2君が帰って未久(ほどな)く、早くも乱れ落(ち)る、香紅(うめ)は千畝に。

3一葉(こぶね)で縹緲(とお)く波を凌(こ)え、三十六離宮を過ぎると、遊人(わたし)を回首(ふりかえ)らせる(遣)。

 

4猶(ま)だ有(い)る、画船(ふね)で袖で(顔を)障(かく)し、青楼で扇に倚(もた)れ、秀を争う人(おんなたち)が相映(ひきたてあ)う。

5翠翹(くびかざり)は光が溜(こぼ)れそう(欲)、宮黄(けしょう)を著(つけ)たがる(愛)、而今(いま)の時候。

6春を傷むのは旧(むかし)の似(よう)、一点(わたしのこころ)を蕩(ゆさぶ)る、春の心は酒の如(よう)。

7呉糸(こと)に写入(の)せて自ら奏でる、問う、誰が識(し)っていよう、曲中の心、花前の友を。


紹熙五年(1194)、四十歳の作。 0兪商卿:兪灝、字は商卿、号は青松居士、『青松居士集』がある。代々杭州に暮らした。白石が湖州・杭州にいた頃に交流があった。 燕遊:宴飲すること。 孤山之西村:孤山の後ろにある西冷橋。 玉雪照映:白い梅の花と白い雪が、互いに照り映えるさま。 薄人:人に迫る。 縹緲:山中に隠棲するさま。 商卿一行作吏:『咸淳臨安志』に「兪灝紹熙四年登第」とある。「一行作吏」は出仕して官となること。嵆康「与山巨源絶好書」に「一行作吏、此事便廃」とある。 2香紅:赤梅をいう。 3三十六離宮:南宋臨安の多くの宮殿をいう。駱賓王「帝京篇」に「秦塞重関一百二、漢家離宮三十六」とある。 4画船障袖:美しく飾った船の上で、遊女が袖で顔をかくしている。周邦彦「瑞龍吟」詞に「障風映袖、盈盈笑語」とある。 青楼倚扇:「青楼」は妓女の住むところ。扇を手に立っている、の意。 5翠翹:美人の首飾りをいう。白居易「長恨歌」に「翠翹金雀玉掻頭」とある。 宮黄:宮女の化粧で、黄色い粉を額に塗る。「額黄」ともいう。 7呉糸:琴の弦。李賀「李憑箜篌引」に「呉糸蜀桐張高秋、空山凝雲頽不流」とあり、王琦 の注に「糸之精好者、出自呉地、故曰呉糸」という。

0 件のコメント:

コメントを投稿