2023年2月22日水曜日

白石歌048惜紅衣

惜紅衣〈無射宮〉

呉興号水晶宮、荷華盛麗。陳簡斎云、今年何以報君恩、一路荷華相送到青墩。亦可見矣。丁未之夏、予遊千巖、数往来紅香中、自度此曲、以無射宮歌之。

1簟枕邀涼、琴書換日、睡余無力。
2細灑冰泉、并刀破甘碧。
3牆頭喚酒、誰問訊・城南詩客。
4岑寂。
5高樹晚蟬、説西風消息。

6虹梁水陌、魚浪吹香、紅衣半狼籍。
7維舟試望、故国眇天北。
8可惜柳辺沙外、不共美人遊歴。
9問甚時同賦、三十六陂秋色。

 

呉興は水晶宮と号(よ)ばれ、荷(ハス)の華(はな)が盛麗(うつく)しい。陳簡斎が云った、「今年何以(どのよう)に君の恩に報いよう、一路荷華(ハスのはな)が青墩まで(到)相送(みおく)ってくれた」と。亦た可見(みるべき)ものがある(矣)。丁未の(之)夏、予(わたし)は千巖に遊び、数(しばし)ば紅香(ハスのはな)の中を往来し、此の曲を自度(つく)り、無射宮で(以)之(これ)を歌った。

 

1簟枕(たけのねどこ)で涼しさを邀(むか)え、琴書で日を換(やりすご)し、余(わたし)を無力(ぐったり)と睡らせる。

2細灑(ちょろちょろ)と冰(つめ)たい泉、并刀(かたな)で甘碧(みかん)を破く。

3牆頭(かきね)で酒を喚(よ)ぼうにも、誰が問訊(たずね)てくれるだろう、城南の詩客を。

4岑寂(さび)しい。

5高い樹に晚(ゆうぐれ)の蟬がいて、西風(あきかぜ)の消息(たより)を説(かた)っている。

 

6虹梁(たいこばし)と水陌(つつみ)、魚浪(さざなみ)に香(かおり)を吹きあげながら、紅衣(はな)は半ば狼籍(ち)り。

7舟を維(つな)いて試望(ながめてみ)よう、故国は眇(はるか)に天の北。

8可惜(おしむべ)きは柳辺沙外(かわぞいのみち)、美人と共に遊歴することはできない(不)。

9問う、甚時(いつ)になったら同(いっしょ)に賦(めで)るだろう、三十六陂(すいごう)の秋の色(けはい)を。


淳熙十四年(1187)、三十三歳、湖州での作。 0呉興:浙江湖州。 水晶宮:蘇州・湖州一帯の美称。呉興には苕渓・霅渓があり、鏡のような水面、亭台(あずまや)も多い。宋・呉曾『能改斎漫録』に「楊濮守湖州、賦詩云、渓上玉楼楼上月、清光合作水晶宮」とある。 陳簡斎:陳与義、号は簡斎、紹興五年(1135)に病を理由に湖州知州に任命され、湖州南の青墩鎮に卜居した。秋に遊びに出かけて「虞美人」詞を作り、引用される「今年何以報君恩、一路荷華相送到青墩」の句がある。「荷華」はテキストによっては「繁華」に作る。 千巖:卞山ともいい、湖州弁山にある。 無射宮:俗名は黄鍾宮。古代の十二音律の一つ。 1簟枕:竹の寝具。 邀涼:納涼。 琴書換日:琴を弾いたり書を読んだりして昼間の時間を過ごす。 2并刀:并州(山西太原)の刀は鋭利なことで有名。周邦彦「少年遊」に「并刀如水、呉塩勝雪、繊手破新橙」とある。 3牆頭喚酒:垣根を隔てて酒売りから酒を買う。杜甫「夏日李公見訪」に「隔屋喚西家、借問有酒不。牆頭過濁醪、展席俯長流」とある。ここは杜甫の詩とは逆に、独り寂しくいるさま。 6虹梁:太鼓橋。 水陌:岸の堤。 魚浪:うろこのような波紋。前蜀・牛嶠「江城子」詞に「簾捲水楼魚浪起、千片雪、雨濛濛」とある。 7故国:北宋の汴京(河南開封)を指す。 9同賦:「同賞」に同じ。 三十六陂:たくさんの湖沼。王安石「題西太一宮壁」其一に「三十六陂流水、白頭想見江南」とある。

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