辛亥秋期、予寓合肥、小雨初霽、偃臥窓下、心事悠然。起与趙君猷露坐月飲、戯吟此曲、蓋欲一洗鈿合金釵之塵。他日野処見之、甚為予擊節也。
1向秋来・漸疏班扇、雨声時過金井。
2堂虚己放新涼入、湘竹最宜欹枕。
3閑記省、又還是・斜河旧約今再整。
4天風夜冷、自織錦人帰、乗槎客去、此意有誰領。
5空贏得今古三星炯炯、銀波相望千頃。
6柳州老矣猶児戯、瓜果為伊三請。
7雲路迥、謾説道・年年野鵲曾並影。
8無人与問、但濁酒相呼、疏簾自捲、微月照清飲。
辛亥の秋期、予は合肥に寓て、小雨が初ど霽れ、窓下で偃臥り、心事は悠然としていた。起きて趙君猷と露坐で月をめでながら飲み、戯れに此の曲を吟じた、蓋く鈿合金釵の塵を一洗いたかったのだろう。他日、野処が之を見て、甚だ予の為に擊節てくれた。
1秋に向来うとして、漸に班扇は疏になり、雨の声が時ば金井を過る。
2堂は虚として已に新しい涼さが放入み、湘竹は枕を欹てるのに最も宜しい。
3閑に記省す、又還是も斜河の旧約(の日が)、今再び整ってきた。
4天の風は夜に冷たい、自ら織錦人は帰り、槎に乗って客は去る、此の意に誰か領くひとは有るだろうか。
5空しく贏得す、今も古も三星だけは炯炯と、銀波を千頃く相望んでいる。
6柳州は老矣て猶お児戯れた、瓜果を伊の為に三(星に投げて祝福を)請おう。
7雲路は迥か、謾に説道う、年年、野鵲によって(牽牛と織姫は)曾て影を並べたのに、と。
8与に問う人は無い、但だ濁酒を相呼め、疏な簾を自ら捲く、微かに月が清飲を照らす。
紹熙二年(1191)、三十七歳の作。 0趙君猷:未詳。 鈿合金釵:螺鈿の小箱と金のかんざし。唐の玄宗が楊貴妃に贈った思い出の品。愛の誓いの品。白居易「長恨歌」に「唯将旧物表深情、鈿合金釵寄将去」とある。 野処:洪邁(1123~1202)、字は景盧、号は野処。 擊節:他人の詩文を称賛すること。 1班扇:班婕妤の扇。漢の成帝の寵愛を失って、「怨歌行」で自分を涼しくなって捨てられる団扇に喩えた。 金井:飾りのある井桁。 2湘竹:湘妃竹、夏の席などに使われる。舜の二妃が、舜の死を悲しんで涙し、そのあとが竹に斑に残った、と伝えられる。 3斜河旧約:七夕に牽牛と織姫が一年に一度だけ会えること。 4織錦人:織姫。『史記』「天官書」に「織女者、天女孫也」とある。 乗槎客:銀河は海に通じていて、毎年八月に筏を海に浮かべて銀河で牽牛と織姫に会う人がいた、という伝説がある。晋・張華『博物志』巻十に見える。 5三星:参宿(オリオン座)の三星。『詩経』唐風「綢繆」に「綢繆束薪、三星在天。今夕何夕、見此良人」とあり、男女の結婚をいう。 6柳州:柳宗元のこと。柳州に左遷された時期がある。柳宗元に「乞巧」文があり、七夕のことを記している。 瓜果為伊三請:果物を投げて、三星銀河に「伊(あなた、柳宗元のこと)」のために祝福してもらう、の意。 7野鵲曾並影:毎年七夕の夜にカササギが橋を渡して、牽牛と織姫の再会を助ける。
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