2023年2月24日金曜日

白石歌041摸魚児

摸魚児

辛亥秋期、予寓合肥、小雨初霽、偃臥窓下、心事悠然。起与趙君猷露坐月飲、戯吟此曲、蓋欲一洗鈿合金釵之塵。他日野処見之、甚為予擊節也。

1向秋来・漸疏班扇、雨声時過金井。
2堂虚己放新涼入、湘竹最宜欹枕。
3閑記省、又還是・斜河旧約今再整。
4天風夜冷、自織錦人帰、乗槎客去、此意有誰領。

5空贏得今古三星炯炯、銀波相望千頃。
6柳州老矣猶児戯、瓜果為伊三請。
7雲路迥、謾説道・年年野鵲曾並影。
8無人与問、但濁酒相呼、疏簾自捲、微月照清飲。

 

辛亥の秋期(あき)、予(わたし)は合肥に寓(みをよせ)て、小雨が初(ちょう)ど霽(は)れ、窓下(まどべ)で偃臥(よこにな)り、心事(こころ)は悠然としていた。起きて趙君猷と(与)露坐(そと)で月をめでながら飲み、戯れに此の曲を吟じた、蓋(おそら)く鈿合金釵(ちかいのしな)の(之)塵を一洗(あら)いた(欲)かったのだろう。他日、野処が之(これ)を見て、甚(はなは)だ予(わたし)の為に擊節(ほめ)てくれた(也)。

 

1秋に向来(なろ)うとして、漸(しだい)に班扇(おうぎ)は疏(まれ)になり、雨の声(おと)が時(しばし)ば金井(いげた)を過(よぎ)る。

2堂(たてもの)は虚(がらん)として已(すで)に新しい涼さが放入(はいりこ)み、湘竹は枕を欹(そばだ)てるのに最も宜(よろ)しい。

3閑(しずか)に記省(おもいだ)す、又還是(また)も斜河(ぎんが)の旧約(やくそく)(の日が)、今(こよい)再び整(めぐ)ってきた。

4天の風は夜に冷たい、自ら織錦人(おりひめ)は帰り、槎に乗って客は去る、此の意(きもち)に誰か領(うなず)くひとは有(い)るだろうか。

 

5空(むな)しく贏得(のこ)す、今も古(むかし)も三星だけは炯炯(あかあか)と、銀波(ぎんが)を千頃(ひろ)く相望(のぞ)んでいる。

6柳州は老矣(おい)て猶(な)お児戯(たわむ)れた、瓜果(くだもの)を伊(かのひと)の為(ため)に三(星に投げて祝福を)請(こ)おう。

7雲路は迥(はる)か、謾(むだ)に説道(い)う、年年(まいとし)、野鵲(かささぎ)によって(牽牛と織姫は)曾(かつ)て影を並べたのに、と。

8与(とも)に問う人は無(いな)い、但(た)だ濁酒(にごりざけ)を相呼(もと)め、疏(まばら)な簾を自ら捲(ま)く、微(かす)かに月が清飲(さけ)を照らす。


紹熙二年(1191)、三十七歳の作。 0趙君猷:未詳。 鈿合金釵:螺鈿の小箱と金のかんざし。唐の玄宗が楊貴妃に贈った思い出の品。愛の誓いの品。白居易「長恨歌」に「唯将旧物表深情、鈿合金釵寄将去」とある。 野処:洪邁(1123~1202)、字は景盧、号は野処。 擊節:他人の詩文を称賛すること。 1班扇:班婕妤の扇。漢の成帝の寵愛を失って、「怨歌行」で自分を涼しくなって捨てられる団扇に喩えた。 金井:飾りのある井桁。 2湘竹:湘妃竹、夏の席などに使われる。舜の二妃が、舜の死を悲しんで涙し、そのあとが竹に斑に残った、と伝えられる。 3斜河旧約:七夕に牽牛と織姫が一年に一度だけ会えること。 4織錦人:織姫。『史記』「天官書」に「織女者、天女孫也」とある。 乗槎客:銀河は海に通じていて、毎年八月に筏を海に浮かべて銀河で牽牛と織姫に会う人がいた、という伝説がある。晋・張華『博物志』巻十に見える。 5三星:参宿(オリオン座)の三星。『詩経』唐風「綢繆」に「綢繆束薪、三星在天。今夕何夕、見此良人」とあり、男女の結婚をいう。 6柳州:柳宗元のこと。柳州に左遷された時期がある。柳宗元に「乞巧」文があり、七夕のことを記している。 瓜果為伊三請:果物を投げて、三星銀河に「伊(あなた、柳宗元のこと)」のために祝福してもらう、の意。 7野鵲曾並影:毎年七夕の夜にカササギが橋を渡して、牽牛と織姫の再会を助ける。

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