2023年2月26日日曜日

白石歌036水龍吟

水龍吟

黄慶長夜泛鑑湖、有懐帰之曲、課予和之。

1夜深客子移舟処、両両沙禽驚起。
2紅衣入槳、青灯揺浪、微涼意思。
3把酒臨風、不思帰去、有如此水。
4況茂陵遊倦、長干望久、芳心事、簫声裏。

5屈指帰期尚未、鵲南飛・有人応喜。
6画闌桂子、留香小待、提携影底。
7我已情多、十年幽夢、略曾如此。
8甚謝郎・也恨飄零、解道月明千里。

 

黄慶長が夜に鑑湖に(船を)泛(うか)べ、(故郷へ)帰りたいという(之)曲を懐(おもい)が有(でき)て、予(わたし)に之(これ)に和(しょうわ)するよう課(もと)めた。

 

1夜が深(ふけ)て客子(たびびと)が舟を移(うご)かす処、両両(つがい)の沙(きし)の禽(とり)が驚起(おき)た。

2紅衣(ハスのはな)に槳(かい)を入(さ)す、青灯(ともしび)が浪に揺れ、微(かすか)な涼しい意思(ここち)。

3酒を把(も)って風に臨めば、思わず(不)帰去(かえ)ることを、此の水(かわ)に有如(ちか)う。

4況(まし)て茂陵(みやこ)で遊び倦れ、長干(ふるさと)では(妻が)望久(まちわび)ている、芳心(うつく)しい事(こころ)、簫の声(おと)の裏(なか)で。

 

5指を屈(お)っても帰る期(とき)は尚未(まだこな)い、鵲が南へ飛べば、応(きっ)と喜ぶ人が有(い)るだろうに。

6画闌(てすり)のそばの桂子(もくせい)、香りを留めて小(しばら)く待ち、影の底(した)で提携(てをとりあ)う(のはいつになるだろう)。

7我(わたし)は已に情(なやみ)が多い、十年の幽(はかな)い夢、略(ほ)ぼ曾て此の如(よう)だった。

8甚(どうし)て謝郎(きみ)も也(ま)た飄零(おちぶれ)て恨み、「月が千里に明るい」と解道(うた)うのか。


紹熙四年(1193)、三十九歳の作。 0黄慶長:未詳。 鑑湖:鏡湖・慶湖ともいう。浙江紹興城南三里にある。 課:要求する。 2紅衣:ハスの花をいう。 3有如:水を指して誓う。『左伝』僖公二十四年に「所不与舅氏同心者、有如白水」とあり、楊伯峻の注に「有如、亦誓詞中常用語、文十二年伝有如河……有如白水即有如河、意謂河神鑑之」という。 4茂陵:漢の武帝の陵墓、長安の西にあり、漢代は富豪が住む地域だった。ここは自分が客として居る場所をいう。 長干:金陵の巷の名。いま南京市南にある。 望久:黄慶長の妻が待ちわびているだろう、の意。 5鵲南飛:鵲が鳴くと吉報があると考えられていた。 8謝郎:南朝宋の謝荘。「月賦」に「美人邁兮音塵闕、隔千里兮共明月。臨風歎兮将焉帰、川路長兮不可越」の句がある。ここは黄慶長を指す。

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