2023年2月20日月曜日

白石歌031清波引

清波引

予久客古沔、滄浪之烟雨、鸚鵡之草樹、頭陀・黄鶴之偉観、郎官・大別之幽処、無一日不在心目間。勝友二三、極意吟賞。朅来湘浦、歳晚凄然、歩繞園梅、摛筆以賦。

1冷雲迷浦、倩誰喚・玉妃起舞。
2歳華如許、野梅弄眉嫵。
3屐歯印蒼蘚、漸為尋花来去。
4自随秋雁南来、望江国・渺何処。

5新詩漫与、好風景長是暗度。
6故人知否、抱幽恨難語。
7何時共漁艇、莫負滄浪烟雨。
8況有清夜啼猿、怨人良苦。

 

予(わたし)は久(なが)らく古沔に客(たびびと)としていて、滄浪(江)の(之)烟(けぶ)る雨、鸚鵡(洲)の(之)草と樹、頭陀(寺)や黄鶴(楼)の(之)偉(すばら)しい観(ようす)、郎官(湖)や大別(山)の(之)幽(しず)かな処、一日として心目間(こころ)に不在(な)いことは無かった。二、三の勝友(とも)と、極意(こころのそこ)から吟賞(たのし)んだ。湘(江)の浦(いりえ)を朅来(はな)れるとき、歳の晚(くれ)で凄然(さび)しく、園の梅を歩き繞って、筆を摛(つら)ねて以(そうし)て賦(よ)む。

 

1冷たい雲が浦(いりえ)に迷う、誰に倩(かわ)って喚ぶのか、玉妃(うめのはな)が起舞(まいだ)す。

2歳華(としつき)は如許(いかばかり)か、野の梅が眉嫵(なまめかしさ)を弄ぶ。

3屐(はきもの)の歯が蒼蘚(こけ)に印をつけ、漸(ようや)く花を尋ねる為に来去(いきき)する。

4自(みずか)ら秋の雁が南へと来るのに随って、江国を望めば、渺(はるか)に何処(いずこ)。

 

5新しい詩を漫(みだり)に与(つく)る、好(すばら)しい風景は長是(いつも)も暗(ひそ)かに度(さ)る。

6故人(とも)は知っているかどうか(否)、幽恨(うらみ)を抱いて難語(ことばにできな)い。

7何時(いつ)になったら漁艇(ぎょせん)を共にし、滄浪の烟(けぶ)る雨に莫負(そむかな)いでいられるだろう。

8況(まし)て清らかな夜に啼いている猿が有(い)て、人を怨むこと良(はなは)だ苦い。


淳熙十三年(1186)、三十二歳の作。 0古沔:湖北武漢漢陽。白石は江西鄱陽の人で、父がかつて漢陽知県で、幼年の頃に父に従って漢陽に住んだ。姉も漢陽で嫁ぎ、父の死後は姉のもとで育った。 滄浪:漢水のこと。 鸚鵡:武昌の鸚鵡洲。漢陽西南にある中州。唐・崔顥「黄鶴楼」詩の「晴川歴歴漢陽樹、芳草萋萋鸚鵡洲」が有名。 頭陀:寺の名。漢口西北にある。 黄鶴:楼の名。武漢蛇山黄鵠磯にあり、下は長江を臨み、風光明媚。蜀の費文禕が仙人となり黄鶴に乗って飛んでいる時、ここに休憩した。あるいは一老人の書いた黄鶴が歌に合わせて舞ったため、繁盛した酒屋が記念して建てた、などの伝説がある。 郎官:湖の名。漢陽東南にある。李白が夜郎に流された時、友人の尚書郎張謂らとここで遊んだことにちなみ、南湖から郎官湖に改名した。李白「泛沔州城南郎官湖」詩に「四坐酔清光、為歓古来無。郎官愛此水、因号郎官湖」とある。 大別:山の名。陸游『入蜀記』に「漢陽負山帯江、其南小山有僧寺者、大別山也」とある。 勝友:良友。 朅来:離れること。ここは漢陽から離れることをいう。 1玉妃:梅の花をいう。唐・皮日休「行次野梅」詩に「鶯払羅捎一樹梅,玉妃無侶独裴回」とある。 2眉嫵:眉目秀麗なさま、ここは梅の花の美しさ。 3屐歯:山登りで履く下駄。 蒼蘚:苔の類。 4江国:漢陽を指す。長江と漢水に臨んでいることから。 暗度:しらないあいだに去る。杜甫「舟中夜雪有懐」詩に「暗度南楼月、寒深北渚雲」とある。

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