2023年2月24日金曜日

白石歌026満江紅

満江紅

満江紅旧調用仄韻、多不協律、如末句云無心撲三字、歌者将心字融入去声、方諧音律。予欲以平韻為之、久不能成。因泛巣湖、聞遠岸簫鼓声、問之舟師、云、居人為此湖神姥寿也。予因祝曰、得一席風径至居巣、当以平韻満江紅為迎送神曲。言訖、風与筆俱駃、頃刻而成。末句云聞珮環、則協律矣。書以緑箋、沈於白浪、辛亥正月晦也。是歳六月、復過祠下、因刻之柱間。有客来自居巣云、土人祠姥、輙能歌此詞。按曹操至濡須口、孫権遺操書曰、春水方生、公宜速去。操曰、孫権不欺孤。乃徹軍還。濡須口与東関相近、江湖水之所出入。予意春水方生、必有司之者、故帰其功於姥云。

1仙姥来時、正一望千頃翠瀾、旌旗共乱雲俱下、依約前山。
2命駕群龍金作軛、相従諸娣玉為冠。〈廟中列坐〉〈如夫人者十三人〉
3向夜深・風定悄無人、聞珮環。

4神奇処、君試看。
5奠淮右、阻江南。
6遣六丁雷電、別守東関。
7却笑英雄無好手、一篙春水走曹瞞。
8又怎知、人在小紅楼、簾影間。

 

「満江紅」の旧調は仄韻を用い、多くが律に不協(あわな)かった、如(たと)えば末句に「無心撲」三字と云(い)うのは、歌者(うたいて)が「心」字を(将)去声に融入(い)て、方(やっ)と音律に諧(あ)った。予(わたし)は平韻で(以)之(これ)を為(つく)りた(欲)かったが、久(なが)らく不能成(できな)かった。巣湖に(船を)泛(うか)べ、遠く岸に簫鼓の声(おと)を聞いたので(因)、之(これ)を舟師(せんどう)に問(たずね)ると、「居人(むらびと)が此の湖の神姥(せんにょ)の為に寿(おいわい)しているのです(也)」と云(い)う。予(わたし)は因(そこ)で祝って、「一席(ひとしきり)の風径(かぜ)が居巣に得至(ふ)いた、当(まさ)に平韻『満江紅』で(以)神を迎え送る曲を為(つく)るべきでしょう」と曰(の)べた。言い訖(お)えると、風は筆と(与)俱(とも)に駃(はや)く、頃刻(すこしのじかん)で(而)成(で)きた。末句には「聞珮環」と云い、則(そこ)で律に協(あ)っている(矣)。緑箋で(以)書いて、白波に(於)沈めたのが、辛亥正月の晦(みそか)であった(也)。是歳(このとし)の六月、復(ふたた)び祠の下(もと)を過(とおりがか)り、因(そこ)で之(これ)を柱の間に刻した。居巣から(自)来た客が有(い)て、「土人(とちのひと)が姥(せんにょ)を祠(まつ)るときは、輙(すなわ)ち此の詞を歌うことができる(能)」と云(い)う。按(かんがえ)るに、曹操が濡須口に至ったとき、孫権が(曹)操に書(てがみ)を遺(のこ)して、「春の水が方(まさ)に生じようとしている、公は速やかに去るが宜(よろ)しかろう」と曰(い)った。(曹)操は「孫権は孤(わたし)を不欺(あざむかな)い」と曰(い)った。乃(そこ)で軍を徹(退)して還(かえ)った。濡須口は東関と(与)相近(ちか)く、江湖の水の(之)出入する所である。予は春の水が方に生じるなら、必ず之(これ)を司る者が有(い)ると意(おも)って、故(それゆえ)に其の功を姥に(於)帰して(以下の詞に)云(い)う。

 

1仙姥(せんにょ)が来る時、正に千頃(ひろ)がる翠瀾(なみ)を一望し、(儀仗の)旌旗(はた)が乱雲と共に俱(そろ)って下る、依約(ひっそり)した前山に。

2駕(くるま)を命じられる群龍は金で軛(くびき)を作り、相従(したが)う諸娣(あねたち)は玉(ぎょく)で冠を為(つく)る。〈廟中に列坐する〉〈如(たとえ)ば夫人は(者)十三人〉

3夜は深けよう(向)として、風が定(しず)まり悄(ひっそり)と無人(ひとけな)く、珮環(おびだま)(の音)が聞える。

 

4神奇な処、君よ、試しに看(み)てごらん。

5淮右を奠(まつ)り、江南を阻(はば)む。

6六丁の雷電を遣(つか)わして、別(とく)に東関を守っている。

7却(おもいがけ)ず笑っている、英雄に好手(てだて)が無く、一篙(ひとさお)の春水(はるのかわ)が曹瞞(そうそう)を走(にげ)らせたことを。

8又(ま)た怎(どうし)て知るだろう、人(そのひと)は小さな紅楼(たかどの)の、簾(すだれ)の影(かげ)の間(うち)に在(い)るとは。


紹熙二年(1191)、三十七歳の作。 0無心撲:周邦彦「満江紅(昼書移陰)」詞の末句に「最苦是蝴蝶満園飛、無心撲」とある。 巣湖:安徽合肥の東南六十里にある湖。 湖神姥:巣湖の女神。『方輿勝覧』巻四十六に「姥山在巣湖中、湖陥、姥升此山。有廟。羅隠詩云『借問邑人沈水事、已経秦漢数千年』」とある。 居巣:県名。安徽巣県東北。 濡須:川の名。安徽巣県西の巣湖から発し、東南に流れて長江に合流する。交通の要衝で、魏晋の時代はこの地を争った。 乃徹軍還:『三国志』呉書「呉主伝」の注に『呉暦』を引いて、後漢の建安十八年(213)、曹操が濡須口まで来た時に孫権が警告する書を送り、曹操軍が撤退した記事が見える。 東関:三国時代に呉が巣湖の東南に築いた。濡須水を隔てて西関と向かい合っている。 2命駕:車に命じる。すなわち乗ること。 軛:車を牽く馬の首にかける器具。一般には木製。 5淮右:淮南西路一帯。宋代、淮揚一帯に淮南東路と淮南西路が置かれ、淮南西路を淮右と呼んだ。巣湖は淮右に属した。 6六丁:伝説中の天神。雷電を司る。韓愈「調張籍」に「仙宮敕六丁、雷電下取将」とある。 7篙:船を操る竿。 曹瞞:曹操の小字は阿瞒。 8簾影間:簾の中にいる、かよわい女子。あの英雄を追いやった仙女が、いまは小さな祠にまつられていること。

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