2023年2月1日水曜日

白石詩015昔遊詩⑪

昔遊詩

其十一

1昔遊衡山上、
2未暁入幽谷。
3欲識所坐輿、
4横板挂両竹。
5状如秋千垂、
6高下不傾覆。
7登山九千丈、
8中道多仏屋。
9一峰高一峰、
10峰峰秀林木。
11仰看同来客、
12木末見冠服。
13高台石橋路、
14尋常雲所宿。
15下方雷雨時、
16此上自晴旭。
17紫蓋何突兀、
18万里在一目。
19余峰六七十、
20僅如翠浪矗。
21北有嬾瓚巌、
22大石庇樵牧。
23下窺半厓花、
24杯盂𤥨紅玉。
25飛雲身畔遇、
26攪之不盈掬。
27祝融最高絶、
28紫蓋不足録。
29俯視同仰観、
30蒼蒼万形伏。
31惟余岣嶁峰、
32南睇半空緑。
33髣髴認瀟湘、
34向嶽流屈曲。
35高処驚我魂、
36翻思宅平陸。
37其東有雷穴、
38霊異謹勿触。
39雲来綿世界、
40雲去一峰独。
41僧窓或留罅、
42雲入不可逐。
43絶頂横石梁、
44仙人有遺躅。
45山多金光草、
46夜半如列燭。
47霊薬不可尋、
48吁嗟帰太速。

 

其十一

 

1昔、衡山の上に遊び、

2未暁(よあけまえ)に幽谷に入った。

3所坐(すわ)る輿を識ろう(欲)としたら、

4横板を両(に)ほんの竹に挂けたものだった。

5状(ようす)は秋千(ブランコ)が垂れている如(よう)で、

6高くなったり下(ひく)くなったりしても不傾覆(かたむかな)い。

7山を登ること九千丈、

8中道(とちゅう)には仏屋(てら)が多い。

9一峰(みね)は高一峰(どんどんたか)くなり、

10峰峰(どのみね)も秀(すばら)しい林木(はやし)。

11同(いっしょ)に来た客(ひと)を仰ぎ看ると、

12木末(こずえ)に冠服が見える。

13高台に石橋の路、

14尋常(つね)に雲の宿(あ)る所。

15下方(ふもと)が雷雨の時も、

16此(こ)の上は自(いつ)も晴旭(は)れている。

17紫蓋(峰)は何と突兀(そび)え、

18万里が一目に在(みわたせ)る。

19余(ほか)の峰は六、七十、

20僅(わず)かに翠(あお)い浪が矗(た)っている如(よう)。

21北には嬾瓚巌が有り、

22大石が樵(きこり)や牧(ぼくどう)を庇(まも)っている。

23下を窺うと半厓(がけ)に花があり、

24紅玉を琢(みが)いた杯盂(さかづき)のよう。

25飛雲(くも)が身(からだ)の畔(そば)に遇(く)るが、

26之(これ)を攪(つか)もうとしても不盈掬(すくえな)い。

27祝融(峰)は最も高絶(たか)く、

28紫蓋(峰)も録(と)るに不足(たらな)い。

29俯して視(み)ても同じく仰ぎ観ても、

30蒼蒼(あおあお)と万形(さまざまなかたち)で伏している。

31惟(た)だ余(のこ)る岣嶁峰は、

32南へ半空の緑を睇(み)せている。

33髣髴(まる)で認(みえ)るようだ、瀟湘(かわ)が、

34嶽に向って屈曲して流れてくるのが。

35高処は我(わたし)の魂(こころ)を驚かせ、

36翻(ひるがえ)って平陸(へいち)に宅(い)たいと思わせる。

37其の東には雷穴があり、

38霊異(ふしぎ)なので謹んで触れてはいけない(勿)。

39雲が来れば世界に綿(ひろが)り、

40雲が去れば一峰(みね)が独(ぽつり)と。

41僧窓(てらのまど)には或は罅(すきま)が留(あ)って、

42雲が入っても逐うことができない(不可)。

43絶頂には石の梁が横(よこたわ)り、

44仙人の遺躅(あと)が有る。

45山には金光草が多く、

46夜半は燭(ともしび)を列(なら)べたかの如(よう)。

47霊薬は不可尋(さがせな)い、

48吁嗟(ざんねん)ながら太速(さっさ)と帰ったから。


17紫蓋:紫蓋峰。『水経注』巻三十八に「湘水又北逕衡山県東、山在西南、有三峰、一名紫蓋、一名石囷、一名芙蓉」とある。「紫蓋」は赤紫色の車蓋で、帝王の儀仗の一つ。帝王の車をいう。 21嬾瓚巌:黄庭堅「次韻元実病目」に「君不見、岳頭懶瓚一生禅、鼻涕垂頤渠不管」とあり、任淵注に「潭州南岳福巌寺、有懶残巌。按唐高僧号懶瓚、隠居衡山之頂石窟中」とある。 32睇:流し目。 44遺躅:遺跡。 45金光草:伝説の仙草で、食べると長寿になるという。

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