2023年2月28日火曜日

白石歌005江梅引

江梅引

丙辰之冬、予留梁渓、将詣淮而不得、因夢思以述志。

1人間離別易多時、見梅枝、忽相思。
2幾度小窓幽夢手同携。
3今夜夢中無覔処、漫徘徊、寒侵被、尚未知。

4湿紅恨墨浅封題、宝箏空、無雁飛。
5俊遊巷陌、算空有・古木斜暉。
6旧約扁舟、心事已成非。
7歌罷淮南春草賦、又萋萋。
8漂零客、涙満衣。

 

丙辰の(之)冬、予(わたし)は梁渓に留まり、淮而(わいなん)に詣でよう(将)としたが不得(できな)かった、因(そこ)で夢に思ったことを以て志(きもち)を述べる。

 

1人間(このよ)では離別(わかれ)が易多(たやす)い時、梅の枝を見て、忽(ふっ)と相思(おも)う。

2幾度となく小窓(まどべ)で幽夢(ゆめ)に手を同携(とりあ)った。

3今夜の夢の中、(あの人は)無覔処(みつからな)い、漫(むだ)に徘徊(あるきまわ)って、寒さが被(しとね)に侵(しの)び、尚(それで)も未知(わからな)い。

 

4湿(ぬ)れた紅(びんせん)、恨みの墨(ふであと)、浅(かる)く封(とじ)て(宛名を)題(か)く、宝箏(こと)は空しく、飛ぶ雁は無(いな)い。

5俊遊(あそ)んだ巷陌(はなまち)には、算(きっ)と空しく有るのだろう、古木と斜暉(ゆうひ)が。

6旧(むかし)の扁舟(こぶね)での約(やくそく)、心事(きもち)は已に非(ちが)うものに成(な)った。

7淮南の「春草」の賦(うた)を歌い罷(おえ)た、又(ま)た萋萋(わさわさ)と(春草が茂る季節)。

8漂零(おちぶれ)れた客(たびびと)、涙が衣に満(いっぱ)い。


慶元二年(1196)、四十二歳の作。 0梁渓:いまの江蘇省無錫。張鑑の荘園があった。 淮而:「而」は「南」の訛り。淮南は、安徽合肥。 4湿紅恨墨:二説あり、一説は「湿涙」を「紅涙」と解釈し、一説は紅箋に涙が浸みると解釈する。いずれの説も、妓女が泣きながら書いた怨みに満ちた手紙の意。 無雁飛:箏の柱(ことじ)を立てて弾く人がいない。柱の並ぶ様子が、雁の群れが列をなして飛ぶ姿に似ている。 7淮南春草賦:淮南小山「招隠士」に「王孫遊兮不帰、春草生兮萋萋」とある。白石は五年前に合肥を離れる時に011「点絳唇(金谷)」を作り、「淮南好、甚時重到、陌上生春草」と詠っている。

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