大酺 周邦彦
春雨1対宿煙收、春禽静、飛雨時鳴高屋。
2牆頭青玉斾、洗鉛霜都尽、嫩梢相触。
3潤逼琴糸、寒侵枕障、虫網吹黏簾竹。
4郵亭無人処、聴檐声不断、困眠初熟。
5奈愁極頻驚、夢軽難記、自憐幽独。
6行人帰意速。
7最先念・流潦妨車轂。
8怎奈向・蘭成憔悴、衛玠清羸、等閑時・易傷心目。
9未怪平陽客、双涙落・笛中哀曲。
10況蕭索青蕪国、紅糝鋪地、門外荊桃如菽。
11夜遊共誰秉燭。
春の雨
1対う、宿の煙が收え、春の禽が静かになり、飛る雨が時ず高屋を鳴らすさまに。
2牆頭の青玉斾は、鉛霜を洗い都尽し、嫩らかな梢が相触って。
3潤が琴の糸に逼り、寒さが枕障に侵り、虫をとる網が吹かれて簾竹に黏りついている。
4郵亭に人処は無い、檐をうち不断ける声を聴いていると、困眠が初く熟くなった。
5奈ればいいのだろう、愁いが極まって頻りに驚める、夢は軽く難記い、自ら幽独を憐れむ。
6行人は帰りたい意に速れて。
7最先に念うのは、流潦が車轂を妨げること。
8怎奈く向で、蘭成のように憔悴し、衛玠のように清羸せ、等閑な時も心目を傷ませ易かった。
9未怪ど平陽の客が、双すじの涙を落としたはずだ、笛中の哀しい曲をきいて。
10況て蕭索い青蕪国に、紅糝が地に鋪ち、門外では荊桃が菽の如であれば。
11夜に遊ぼう、誰が共に燭を秉ってくれるだろう。
2青玉斾:新竹の喩え。「斾」は「旆」と作るテキストもあり、古代の旗の一種、先端が燕の尾の形で、旒(はたあし)を垂らす。広く旌旗(はた、のぼり)をいう。 3潤逼琴糸:雨で湿気があることが、琴の音から分かる。王充「論衡」に「天且く雨ふり、琴弦緩む」とある。 障:カーテンや屏風。 4郵亭:街道沿いに設置された旅館、文書を送ったり旅人を宿泊させた。 7流潦妨車轂:途中で水がたまって、車が走行できなくなる。「轂(こしき)」は車輪の中央の丸い木で、輻 (や) を差し込んだり車軸を通す。 8怎奈向:周済は「宋人の語、「向」は「一向」二字と解するものもある、現在の言葉では「向来」(『宋四家詞選』)、という。 蘭成:庾信の小字を蘭成という。騒乱続きの生涯で、「哀江南賦」を作った。 衛玠:晋の人、名声を聞いて訪ねてくる人が多く、「羸」疾(痩せ衰えること)に罹り、ついには病のため死んだ。二十七歳になったばかりで、当時人々は「衛玠を看殺す」と言った。 9平陽客:漢の馬融のこと、音楽を好み、笛が上手で、平陽で臥していた時に、宿で誰かが悲しげに笛を吹くのを聞いて「笛賦」を作った。 10青蕪国:雑草が生い茂っている場所。温庭筠「春江花月夜詞」に「花庭忽作青蕪国(花庭 忽として青蕪国と作る)」とある。 紅糝:落花の喩え。「糝」は米粒、派生義でばらばらに散っている粒のこと。 荊桃如菽:桜桃(サクランボ)が豆のように出始める。 11「夜遊」句:李白「春夜宴桃李園序」に「古人秉燭夜遊、良有以也(古人燭を秉りて夜遊ぶ、良に以〔ゆえ〕有るなり)」とある。
0 件のコメント:
コメントを投稿