2021年11月5日金曜日

106大酺(周邦彦)

大酺  周邦彦

春雨

1対宿煙收、春禽静、飛雨時鳴高屋。
2牆頭青玉斾、洗鉛霜都尽、嫩梢相触。
3潤逼琴糸、寒侵枕障、虫網吹黏簾竹。
4郵亭無人処、聴檐声不断、困眠初熟。
5奈愁極頻驚、夢軽難記、自憐幽独。

6行人帰意速。
7最先念・流潦妨車轂。
8怎奈向・蘭成憔悴、衛玠清羸、等閑時・易傷心目。
9未怪平陽客、双涙落・笛中哀曲。
10況蕭索青蕪国、紅糝鋪地、門外荊桃如菽。
11夜遊共誰秉燭。
 

春の雨

1対(むきあ)う、宿(やらい)の煙(もや)が收(き)え、春の禽(とり)が静かになり、飛(ふきつけ)る雨が時(たえ)ず高屋(やね)を鳴らすさまに。

2牆頭(かきね)の青玉斾(たけのは)は、鉛霜(おしろい)を洗い都尽(つく)し、嫩(やわ)らかな梢が相触(ふれあ)って。

3潤(しめりけ)が琴の糸(げん)に逼(せま)り、寒さが枕障(まくらもと)に侵(しのびい)り、虫をとる網(くものいと)が吹かれて簾竹(すだれ)に黏(は)りついている。

4郵亭(えき)に人処(ひとけ)は無い、檐(ひさし)をうち不断(つづ)ける声(おと)を聴いていると、困眠(ねむけ)が初(ようや)く熟(こ)くなった。

5奈(どうす)ればいいのだろう、愁いが極まって頻りに驚(さ)める、夢は軽(あさ)く難記(おぼえていられな)い、自(みずか)ら幽独(ひとり)を憐れむ。

 

6行人(たびびと)は帰りたい意(おもい)に速(から)れて。

7最先(まっさき)に念(おも)うのは、流潦(たまりみず)が車轂(くるま)を妨げること。

8怎奈(どうしようもな)く向(これま)で、蘭成のように憔悴し、衛玠のように清羸(や)せ、等閑(ありきたり)な時も心目(こころ)を傷ませ易かった。

9未怪(なるほ)ど平陽の客が、双(ふた)すじの涙を落としたはずだ、笛中(ふえのね)の哀しい曲をきいて。

10況(まし)て蕭索(さびし)い青蕪国(くさはら)に、紅糝(はなびら)が地に鋪(み)ち、門外(そと)では荊桃(サクランボ)が菽(まめ)の如(よう)であれば。

11夜に遊ぼう、誰が共に燭(ろうそく)を秉(と)ってくれるだろう。


2青玉斾:新竹の喩え。「斾」は「旆」と作るテキストもあり、古代の旗の一種、先端が燕の尾の形で、旒(はたあし)を垂らす。広く旌旗(はた、のぼり)をいう。 3潤逼琴糸:雨で湿気があることが、琴の音から分かる。王充「論衡」に「天且く雨ふり、琴弦緩む」とある。 障:カーテンや屏風。 4郵亭:街道沿いに設置された旅館、文書を送ったり旅人を宿泊させた。 7流潦妨車轂:途中で水がたまって、車が走行できなくなる。「轂(こしき)」は車輪の中央の丸い木で、輻 (や) を差し込んだり車軸を通す。 8怎奈向:周済は「宋人の語、「向」は「一向」二字と解するものもある、現在の言葉では「向来」(『宋四家詞選』)、という。 蘭成:庾信の小字を蘭成という。騒乱続きの生涯で、「哀江南賦」を作った。 衛玠:晋の人、名声を聞いて訪ねてくる人が多く、「羸」疾(痩せ衰えること)に罹り、ついには病のため死んだ。二十七歳になったばかりで、当時人々は「衛玠を看殺す」と言った。 9平陽客:漢の馬融のこと、音楽を好み、笛が上手で、平陽で臥していた時に、宿で誰かが悲しげに笛を吹くのを聞いて「笛賦」を作った。 10青蕪国:雑草が生い茂っている場所。温庭筠「春江花月夜詞」に「花庭忽作青蕪国(花庭 忽として青蕪国と作る)」とある。 紅糝:落花の喩え。「糝」は米粒、派生義でばらばらに散っている粒のこと。 荊桃如菽:桜桃(サクランボ)が豆のように出始める。 11「夜遊」句:李白「春夜宴桃李園序」に「古人秉燭夜遊、良有以也(古人燭を秉りて夜遊ぶ、良に以〔ゆえ〕有るなり)」とある。

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