其五
1山陰千載人、
2揮灑照八極。
4猶帯龍虎筆。
5單侯出機杼、〔單煒、炳文〕
6豈是剣舞得。
7余波入竹石、
8絶歎咄咄逼。
杜甫の「長歌 意は極まり無し、好し老夫が為に聴け」を以て韻と為し、沔鄂の親戚友人に別れ奉る。
其五
1山陰の千載にひとりの人(王羲之)、
2その揮灑で八極を照らした。
3只今、定武刻(本)があり、
4猶お龍虎の筆を帯っている。
5單侯〔單煒、炳文〕は新しい機杼を出した、
6豈是、剣舞をみて得たなどといえようか。
7余波は竹石(画)に入り、
8咄咄と逼って、絶歎するばかりだ。
1山陰:会稽郡山陰県(今の浙江省紹興)、東晋の書家王羲之(三○三?~三六一?)が晩年に隠逸生活を送った。 千載人:千年に一人の人材。 2八極:四方と四隅。東・西・南・北、乾・坤・艮・巽の八方。また、八方の遠い土地。 3只今:いま。 定武刻:王羲之「蘭亭序」の定武刻本。 4龍虎筆:王羲之の書を酷愛した唐の太宗が、「蘭亭序」を入手した後、能書家に摸写や臨書をさせた。中でも欧陽詢のものを最上として石に刻し、拓本を臣下に賜与した。刻石は唐の滅亡とともに流転したが、北宋の時に定武軍で発見され、黄庭堅が推奨したこともあって、広く学ばれた。「龍虎筆」は、唐の太宗が王羲之の伝につけた賛「龍の天門に跳(おど)り、虎の鳳閣に臥す」の言葉。 5出機杼:詩文の構想、構成に独創性があること。「機杼」は、はたを織る用具。杼 (ひ) 。 單煒、炳文:夏承燾『姜白石詞編年箋校』「行実考(交遊)」卅三「單炳文」、参照。周密『斉東野語』巻十二に、「単煒、字は丙文、沅陵の人。博学能文にして、二王の筆法を得。字画遒勁、古の法度に合す。法書を攷訂することに於いて尤も精し。武挙(科挙の一種)にて官を得、仕えて路分に至る。声を江湖の間に著わし、名士大夫多く之と交わる。自ら定齋居士と号し、堯章と投分最も稔(つ)む。亦た碩士なり」とある。董史『皇宋書録』巻下に、「単煒、字は丙文、谷中云う、西班の人。書を善くし、刻する所の『定武蘭亭』有り、世に伝わる。谷中嘗て其の『絳帖弁証』を取り、襄陽に於いて刻する者、『星鳳帖』の後に重刻す」とある。中田勇次郎「姜堯章の書学」は他の資料も挙げて、「かれが単丙文に学んだことは明らかであり、又、かれの蘭亭序の鑑識、絳帖の研究にも、単と相益するところがあったことが想像される」(111~112頁)という。 6剣舞:草書で有名な張旭が、剣舞を見て長足の進歩を遂げた故事。 7竹石:竹石を描いた画。 8絶歎:激賞する。 咄咄逼:人を凌駕し、驚かせること。「咄咄」は驚きおそれるさま。後には勢いが盛んなさまに用いる。
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