其六
1異時之罘君、
2在涅守白顥。
3黄鍾欠牛鐸、
4淋漓弔遺稿。
5有子殊可人、〔蔡迨、堅吾、子字武伯〕
6特未見此老。
7客来請論文、
8但道曲肱好。
杜甫の「長歌 意は極まり無し、好し老夫が為に聴け」を以て韻と為し、沔鄂の親戚友人に別れ奉る。
其六
1異時、之罘君(蔡迨のこと)は、
2涅に在ながら白顥を守っていた。
3黃鍾に牛鐸(蔡迨)を欠き、
4淋漓な遺稿を弔うしかなかった。
5子〔蔡迨、堅吾、子は武子、字は武伯〕が有て、みな殊可人あるが、
6特だ此の老(蔡迨)には未見かった。
7客が来て文を論じていただきたいと請っても、
8但だ肱を曲げてまくらとするが好しいと道うだけだったそうだ。
1之罘:「芝罘」、山東省煙台にある山の名。秦の始皇帝がここに登ったことがある。蜃気楼が見えるという。「之罘君」は第五句の原注にある蔡迨を指す。陸游が蔡迨と交流があり、「跋之罘先生稿」を記している。北宋の蔡斉の四世の孫。博学で文章にすぐれていた。 2「在涅」句:黒く濁った世間にいながら、潔白さを守っている。「涅」は黒くねばった泥、また泥にまみれること。『論語』「陽貨」に「不曰白乎、涅而不緇」とある。 3「黄鍾」句:「黄鍾(鐘)」は、雅楽で用いられる打楽器。音律の中心となる音。「牛鐸」は牛の鈴。雅楽の律を調和することを任された荀勗が、路で商人が牛の鈴を売っていた、あの音があれば調和するだろうと言ったところ、送られてきた牛の鈴を用いたら果たして音律が調った、という故事。『晋書』「荀勗伝」に見える。荀勗は、笛律を考えた人。 4淋漓:濡れているさま、墨跡をいう。 5蔡迨、堅吾、子字武伯:「蔡迨、堅吾、子武子、字武伯」とするテキストがあり、そのほうが通じる。「堅吾」は肩吾の誤りか。韓淲『澗泉日記』巻中に、「蔡迨、字は肩吾、許昌の人。蔡文忠公斉の孫、川蜀に流落し、……桂陽令と為り以て歿す。其の子、武子、亦た俊爽にして文を好み、今流落して荊湘の間に在り」とある。 6此老:蔡迨を指す。 8曲肱:清貧にして閑適な生活をいう。『論語』に「子曰、飯蔬食飲水、曲肱而枕之、楽亦在其中矣」とある。
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